僕は先生の運転する車で、学校から1キロほど離れた市立病院へ送ってもらった。僕たちは終始無言で、僕はただ流れる景色を眺めるだけだった。
やがて車は市の中心部に入り、大きな病院の建物も目に入ってくる。そこでやっと、先生は口を開いた。
「翔太くん、大丈夫?」
僕は今にも泣きそうな気持ちだったけど、男が泣いてどうすると、
「大丈夫です。心配しないでください」
と笑顔を見せた。先生はまだ不安そうだったけど、小さく口角を上げてくれた。そのうち、ウインカーを出しながら車は右折をして、病院のロータリーに横付けされた。
「それじゃあ、私は学校に戻るから。翔太くんは美耶子ちゃんのところに行ってあげて。私の方で処理はしとくから」
僕を下ろした先生はそう言って、すぐに車を発進させた。1人残された僕の元に、母が疲れ顔で向かって来た。
「翔太」
母は優しく呼びかけてくれるけど、僕は申し訳なさでいっぱいだった。
「母さんごめん。僕が美耶子を置いてあったから、こんなことに……」
僕が言うと、母は僕を抱きしめた。久しぶりの母の温もりに、ジンとなってくる。
「お願いだから、そんなこと言わないで。翔太のせいじゃないから……、ね?」
その声は震えていて、泣いているんだと分かった。そして母は背中をさすってくる。僕の目からも、涙が溢れでた。

どのくらいそうしていただろう。母は僕の身体から離れて、目尻を軽く指で拭った後、
「行こう」
と手を差し出してきた。僕はその左手に自分の右手を重ねて、母と並んで歩き出した。