『楽しい日々はずっとは続かないさ だから今楽しんで生きようよ』
ハッとなった。あの日にも、今日と同じような時間に、この公園でこの歌を聞いた。
「何ですか、その歌」
「いいじゃない、好きだもん」
重なった。
やりとりまでも、あの時のままだ。
「美耶子」
試しに呼びかけてみる。すると、前を行く林田さんはゆっくりと振り返ってきた。
「何? お兄ちゃん」
本当なのか? 今目の前にいるのは美耶子なのか?
「本当に? 」
「うん。本当」
「でもなんか、大人になった感じ、するな」
「そうだね。だってあっちではちゃんと成長してるから」
「あっちって、天国? 」
「うん」
夢みたいだ。頬をつねったら、痛かった。
「天国で暮らしてたら、お兄ちゃんのごめん、ごめんって声が聞こえてきたの。何にも悪くないのになって、大丈夫だよって言いたかった」
「うん」
「そしたら、一年に一度、こっちに来れるようになったの」
「そんなこと、本当にあるんだな」
僕の言葉に、美耶子はふふっと笑った。
「私だってそう思ったよ。でも、今こうして喋れてる。ね? 」
「ああ」
もう一度顔を上げて見ると、彼女は夕立のように顔を陰らせて、悲しそうにした。
「でもさ、もう帰らないと」
「えっ」
「お兄ちゃん」
覚悟したような、そんな声色。
「もう私、多分こっちには来られない。だけど、絶対に、私を追いかけてみたいなことはしないでね。これが、最後のお願い」
「わかった」
そして、
「ちゃんと、お兄ちゃんのこと、見てるからね。私の分まで、生きて」
「うん」
「じゃあね」

ひらりと右手を上げて、振った後、彼女は徐々に薄くなっていき、ついにはいなくなった。
そこで、僕は意識を失った。