「よし! これだけあれば大丈夫だな。店に戻ろう」
両手に分けたドングリを持って鳥居をくぐると、威勢の良い声で呼び止められた。
「よう! 悠樹じゃねえか、久し振り」
「あぁ? 俊哉(としや)か」
目を眇めて久しぶりに会った同級生を見る。ご近所なのに、こっちに戻ってきてからも、朝早いヤツとは活動時間帯が違うのか、顔を合わすこともなかったとあらためて思った。
「豆乳飲んでかないか? 旨いぞ」
「いらねぇよ」
町内でも指折りの老舗豆腐屋の跡を継いだ俊哉は、毎日新鮮な豆乳を飲んでいるせいかお肌が艶々でなんだか癪に障る。
「ん? そっちのお嬢ちゃんは、おまえの子か?」
「ンなわけねぇだろうが」
いったいいくつのときの子だよ。その頃はおまえらとつるんでばかりで、彼女なんてできなかったのを知っているくせに。
心の中で悪態をつく俺に構わず、俊哉は屈んで彼女の頭を撫でている。
気安く触るな! 気分はすっかり父親だ。
「あぁなんだ、高坂さんちのお孫さんだ。大きくなったなぁ」
俺よりずっと早く社会人になったヤツの言い方は、まだ二十代半ばなのに妙にオヤジ臭い。
「知っているのか?」
「おばあさんとたまに買い物に来てくれるんだよ。なぁ?」
「はい。このお豆腐屋さんのがんも、すっごくおいしいです」
子どものお世辞に相好を崩して、彼女の頭を更にわしゃわしゃと撫で繰り回す。
「そうだろう? ウチの自慢の品だからな。よしっ! これ、持ってけ」
ポリ容器に入った豆乳と件のがんもを二枚、ビニール袋に入れて渡す。
父子揃ってこんな調子だから、味は折り紙付きなのに経営が大変だと、幼なじみの母親同士で笑いながらぼやいていたっけ。
昔ながらの商店街ではよく聞くあるあるだ。