日本晴れの見本のような青空が広がった数日後の週末。その間、俺のスマホに待ち望んだ着信はなかった。
開店前の掃除をしようと箒を片手に扉を開けると、どこからともなくやってくる落ち葉の山が吹き溜まりに築かれていてげんなりする。
いっそのこと、庭で焼き芋でもしようか。そう思ってしまうほど、掃いても掃いてもきりがない。
集めた落ち葉をひとまずゴミ袋に詰め込んで戻ると、小さな女の子がガラス窓から店内を覗きこんでいた。
「お客さん?」
後ろから俺がかけた声に、ビクッと肩が跳ねかせてこちらを振り返った少女が握っている紙に驚いた。まだ店で配り始めていないそれを持っている人は限られている。
「えぇっと、もしかして高坂さん……の娘さん、かな?」
腰を屈め視線を合わせて尋ねてみると、コクンと小さな頭で頷く。揺れたふたつの三つ編みは彼女と同じ黒豆色だ。
「あのっ! これみたいなケーキ、買えますか?」
チラシにあるクリスマス用のデコレーションケーキを指差して見つめられた。
「丸いおっきなケーキが欲しいんです。……お母さんのお誕生日だから」
俺は突然もたらされた重要機密に目を瞬かせた。
「え? 今日が?」
再びお下げが揺れ、これはいい情報を聞いたとにたりと笑う。
「で、お母さんは? ひとりで来たの?」
「お母さんはお仕事に行きました。帰ってきたらビックリさせようと思って」
「そっか。とにかくお店に入って」
小さな背中を押して、開店の準備で一段と甘く香る店内へと誘った。