ピッカピカに磨いたガラスのショーケースに並ぶのは、卵の味がしっかりと感じられるカスタードをたっぷりと詰めたシュークリーム。
 丁寧に裏ごししたサツマイモで作った滑らかなプリン。
 ホックホクのカボチャのタルトに、甘く煮詰めた林檎のフィリングを歯触りの良いのパイ生地で包んだアップルパイ。
 真っ白な生クリームの上にちょこんと乗った赤いイチゴがそそるショートケーキは、不動の一番人気。

 どれもこれも、ご近所の皆様に愛されて創業53年。『椎の実洋菓子店』二代目店主である親父の渾身の品ばかりだ。

「だけど絵面が地味だよな~。もっとこう、キラキラしく華やかにしないと、駅前にできたパティスリーなんとかとやらに、客を持ってかれやしないか?」

 ガラスを拭いていたクロスを片手に悪態を吐いてみれば、すかさず後ろから蹴りが飛んできた。

「文句を言うなら、てめえが作れ」

 高々と片足を上げたくせに、銀のトレーにキレイに並べた商品を1mmも崩さないところはさすが職人芸と称えるべきか?

「ってぇな。やなこった。誰がこんなシケた店、継ぐか」

「なら、さっさと就職先を見つけることだな。いつまでタダ飯を貪り食うつもりだ」

 甘~いスイーツからはほど遠い厳つい顔で、就活が見事に失敗し家業の手伝いをするという名目で帰郷した愛息に、容赦ないダメ出しをする。

 心についた深い傷を癒やすため、親父がショーケースに几帳面に並べているケーキのひとつをかすめ取ってパクついた。

「おっ。栗? 秋だねぇ」

 しっとりとしたスポンジ生地に甘さ控えめの生クリームをたっぷり塗って、贅沢にも和栗の渋皮煮をひと切れにひと粒入れたロールケーキ。
 シンプルだけど季節を感じさせる限定品は、ご近所の奥様方から絶大な支持を得ている。

 つまみ食いをした俺を鬼の形相で睨みつける親父を横目に、指についたクリームを舐め取りながらチラッと店の鳩時計に目を移す。

 午後3時前。彼女が来るまでにはまだまだ時間があった。