「遅ーい! って、あれ? 聖夜どうしたの?」
「この馬鹿が財布忘れたから、俺が払った」
「えぇ!? さつき財布忘れちゃったの!?」
「ごめんなさい……」
手を離し近寄るとその分だけ後ろに下がる。
なんだよ、怯えんなよ。
「俺に何か言う事ないの?」
「ご、ごめんなさい……!」
どんだけ怖いんだ、俺は。
「違うでしょ」
あんたから聞きたい言葉は、“それ”じゃない。
「“ありがとう”、でしょ」
そう———もう一度、“ありがとう”って、言われたいんだ。
「あ……ありが、と」
恥ずかしげに俯いて俺を言うあいつを、可愛いと思った。
頭を撫でてやりたい。
触れたい。
そんな衝動に駆られるけど、耐える。
駄目だって、分かってるから。