結弦が電話を終えてバスに戻ってくると、それぞれが思い思いに自分の時間を過ごした。

 結弦は文庫本を読んでいて、その隣では怜が寝息を立てている。

 わたしと美輝は最近の流行りについて盛り上がっていた。

 人気のお店のパンケーキやタピオカの話をしていて気づいたことは、やはりわたしの記憶は鮮明に『今』を覚えている。
 大学に行き、就職してパワハラ上司に毎日怒られていたのは、全部夢だったのだろうか? その記憶さえも徐々に虚ろになっている。

 あっという間に一時間が過ぎると、代わりのバスが到着した。

 荷物を持ち、バスを乗り換える準備をする。運転手さんはバスを会社へ戻すらしく、ここでお別れとなった。

 ここまで運んでくれたお礼を運転手さんに告げると、「ご迷惑をおかけしてすみません」と謝られてしまった。

 運転手さんのせいじゃないのに、わたしが言ったひとことでまた申しわけない気持ちにさせてしまったかもしれない。そう思うと、なんだか切なかった。