唐突な子どもの問いかけに、思わず肩がびくっと震える。


「こら、失礼なこと言わないの! ほんとにごめんなさい」


 こんな小さな子どもにさえ気づかれてしまうのか。

 そう考えると言葉を返せずに、堪えた涙が目に溜まり始めた。


「あの……なにか、あったの?」


 この状態でなんでもないなんて言っても、信じてもらえるはずがない。


「あなた、きっとここの人じゃないよね? 観光地でもないこんな田舎にひとりで来るなんて、なにかわけがあるのかしら?」


 わたしは俯いて、テーブルの上で汗をかいたグラスを見つめながら、なんとか返答した。


「……七色ダム」


 これが今のわたしの精一杯だ。

 顔を上げると、翔太くんのお母さんらしき女性は、はっとした顔でわたしを見ていた。


「違ってたらごめんなさい。もしかして七年前の……」

「はい……」


 喉の奥が熱くなってきて、これ以上言葉を繋ぐことができない。


「そう……。少し座ってもいいかしら?」


 小さく頷いて返すと、女性は「ありがとう」と言って、テーブルの向かい側へと座った。


「今でもたまに御遺族のかたが慰霊碑を訪れているみたいだから、もしかしたらとは思ったんだけどね。あ、ご挨拶が遅れてごめんなさい。私は藤枝遙(ふじえだはるか)。あの子は翔太、わたしの息子です」

「神谷……琴音です」

「神谷って……あなた、まさか」

「はい……。あの事故の、生存者です」


 いつの間にか翔太くんはいなくなっていて、僅かな静寂が辺りを包んだ。


「あな、たが……神谷琴音さん」


 そう言うと、今度は遙さんの顔がどんどん影を落としていく。

 目にはうっすらと涙を浮かべていた。


「ごめんなさい、つらいのは怖い思いをしたあなたなのに。実はわたしの父も、当時あのバスに乗っていたの」

「え……?」