「こんにちは。お久しぶりです」


 慌てて挨拶を返すと、結弦のお父さんは一瞬目を見開いてから、


「あぁっ、琴音さん。久しぶりだね」


 と、笑顔を見せてくれた。


 ずぶ濡れで髪もぐしゃぐしゃだったので、おそらくわたしだと気づかなかったのだろう。着替えてくればよかったなと後悔したが、もう遅い。


「この雨に打たれたんですか?」

「はい。傘を忘れてしまって、雨やどりできる場所もなかったもので、こんな格好ですみません」


 スーツ姿で突然来たこともあり、なにか勘繰られないかと心配しながら返答する。


「それはそれは、大変だったね。よかったらこれをどうぞ」


 結弦のお父さんはそう言うとベッドの脇にある戸棚からタオルを出してくれて、風邪をひいてはいけないのでと、冷房を少し弱めてくれた。


 結弦を挟むように向かいに座る。病室に時を刻む音だけが、無機質に響く。