「でもね、琴音」


 涙で濡れた顔を少しだけ上げて、「なに?」と結弦を見つめ返す。


「あのとき琴音がそれを教えてくれたから、その瞬間に未来が変わったのかもしれないよ」

「未来が……変わった?」

「そう、もしかしたら崖下に転落してしまう未来だってあったのかもしれない」


 そういえばいつか物理の先生が、世界にはパラレルワールドという並行世界があると言っていた。

 遠い未来にタイムマシンが完成して過去の出来事をなかったことにしたとしても、元の未来で変化は起こらず、変えられた過去の世界は自分達の未来とは無関係な世界を展開していく。

 こうしてパラレルワールドは無限に広がっているのだと、確かそういう内容だった。


「だから今俺達がここにいられるのは、琴音のおかげかもしれないね」


 あまりオカルトとか超常現象とかは信じていないけれど、結弦の言葉にはなぜかそれを思い出させて、どこか信じさせる力があった。

 他の乗客からもきっと変な目で見られていたのに、わたしの話を真摯に受けとめてくれたことに思わず笑みがこぼれてしまう。