「……だって、オトナなんだから、そんなつまらないことで」
幸希はやっぱりもにょもにょと言ったのだが、志月はやはりそれを簡単に否定した。
「それができない大人も、世の中には多いですよ?」
言われて、それはなんだか少し嬉しかった。
立派なひとだ、と言ってもらったようなものなので。幸希はちょっと笑った。
「それならできるほうでいたいよ、私は」
「僕もですよ」
当たり前のように言った志月のほうが、やっぱり自分よりずっと真面目じゃないか、と思うのだけど。
幸希は違うことを言った。
「……ほら。志月くんもやっぱり優しい」
やさしさをあげます。
そう言ってくれた、あのときのことを思いだしたから。
そして志月も幸希の言葉からそれを思い出したのかもしれない。懐かしそうに、といえる表情で笑う。
表情からなんとなくそれがわかるくらいになってしまったことを、幸希は嬉しく思う。
「そうですか? そう思ってもらえているなら嬉しいですね」
声も嬉しそうな色でそう言って。
「これ、開けていいですか」
次に志月が手に取ったのは、甘栗の袋だった。先日、デートに行った中華街で買ったものだ。甘栗のそこそこ大きな袋詰め。
これは別にワンコインではない。幸希が「食べたいから」と勝手に買ったものだ。
今日のお茶うけに、とテーブルに置いておいた。
クッキーを食べていたのでまだ未開封だったけれど、幸希も食べたいと思っておいていたので、「いいよ」と簡単に答える。
ぱり、と甘栗の袋を開けて、志月は新しい皿に栗をころころと出した。
それを見ながら、ふと幸希の思ったこと。
ちょっとためらったけれど、優しさに甘えてみようか。
今の『甘え』は、きっと悪いものではないだろうから。
「じゃ、優しいついでに……な、なにか変わったんだけど、わかる?」
幸希の言葉に、志月は甘栗に手を伸ばしていた手を留めて、きょとんとした。
幸希の目を見つめる。
「えっ……、えーと……気付かなくてごめんなさい」
やっぱりまたそこから謝るのだった。
「謝らなくていいから。わかる?」
それは実にささいなことで、別に志月がわからないとしても不思議はない。
ただのたわむれだ。
でも、ちょっとそんなやりとりで遊んでみたかった。
志月は数秒、悩む様子を見せた。いくつか考えたようだったが。
「……えーと……ちょっと痩せました?」
言われた『回答』に、幸希の頬はかぁっと熱くなった。
痩せた、と言われたこと自体は嬉しかったが、以前は太っていたと思われていたのか。
そう考えてしまったので。
「そ、それは言わなくていいの!」
実際に体重は落ちていた。それは体型にも着実に反映されていたようだ。
ウエストを測ったり、などはしていなかったし、毎日鏡で自分の顔を見ていれば、顔つきの変化だってすぐにはわからない。他人のほうがわかるだろう。
けれど、そこを言われるのは嬉しいような、恥ずかしいような。
「え、そ、そうだったんですか、すみません」
「……まぁ、本当だけど……」
謝られた。
けれどダイエットが成功して嬉しかったのは本当だったので、視線をさまよわせてごにょごにょと言うと、志月はやはり嬉しそうな顔をしたようだ。声が、ほっとしている。
「やっぱりそうなんじゃないですか」
「でもそうじゃなくて! あ、……新しいセーター買ったの!」
嬉しくはあるが恥ずかしいので話題をそらしたいと思ってしまった幸希は、自ら回答を口にした。
今日のセーター。
アイボリーでやわらかなニット。
先週、新しく買ったもの。
仕事帰りの駅隣接のデパートで偶然見つけたものだったが、一目惚れだった。形はシンプルだが、胸元のビジューがかわいらしかったのだ。値段もそれほどしなかったこともあって、数秒迷っただけで買ってしまったもの。
……勿論着るのは、今日が初めて。
「ああ……あの、」
幸希の『正解』に、志月は『思い当たった』という顔をした。
そのあと、あの、とちょっと気まずそうに言って、そのとおりの理由を口に出す。
「……去年着ていたという可能性も考えられて」
幸希はやっぱりもにょもにょと言ったのだが、志月はやはりそれを簡単に否定した。
「それができない大人も、世の中には多いですよ?」
言われて、それはなんだか少し嬉しかった。
立派なひとだ、と言ってもらったようなものなので。幸希はちょっと笑った。
「それならできるほうでいたいよ、私は」
「僕もですよ」
当たり前のように言った志月のほうが、やっぱり自分よりずっと真面目じゃないか、と思うのだけど。
幸希は違うことを言った。
「……ほら。志月くんもやっぱり優しい」
やさしさをあげます。
そう言ってくれた、あのときのことを思いだしたから。
そして志月も幸希の言葉からそれを思い出したのかもしれない。懐かしそうに、といえる表情で笑う。
表情からなんとなくそれがわかるくらいになってしまったことを、幸希は嬉しく思う。
「そうですか? そう思ってもらえているなら嬉しいですね」
声も嬉しそうな色でそう言って。
「これ、開けていいですか」
次に志月が手に取ったのは、甘栗の袋だった。先日、デートに行った中華街で買ったものだ。甘栗のそこそこ大きな袋詰め。
これは別にワンコインではない。幸希が「食べたいから」と勝手に買ったものだ。
今日のお茶うけに、とテーブルに置いておいた。
クッキーを食べていたのでまだ未開封だったけれど、幸希も食べたいと思っておいていたので、「いいよ」と簡単に答える。
ぱり、と甘栗の袋を開けて、志月は新しい皿に栗をころころと出した。
それを見ながら、ふと幸希の思ったこと。
ちょっとためらったけれど、優しさに甘えてみようか。
今の『甘え』は、きっと悪いものではないだろうから。
「じゃ、優しいついでに……な、なにか変わったんだけど、わかる?」
幸希の言葉に、志月は甘栗に手を伸ばしていた手を留めて、きょとんとした。
幸希の目を見つめる。
「えっ……、えーと……気付かなくてごめんなさい」
やっぱりまたそこから謝るのだった。
「謝らなくていいから。わかる?」
それは実にささいなことで、別に志月がわからないとしても不思議はない。
ただのたわむれだ。
でも、ちょっとそんなやりとりで遊んでみたかった。
志月は数秒、悩む様子を見せた。いくつか考えたようだったが。
「……えーと……ちょっと痩せました?」
言われた『回答』に、幸希の頬はかぁっと熱くなった。
痩せた、と言われたこと自体は嬉しかったが、以前は太っていたと思われていたのか。
そう考えてしまったので。
「そ、それは言わなくていいの!」
実際に体重は落ちていた。それは体型にも着実に反映されていたようだ。
ウエストを測ったり、などはしていなかったし、毎日鏡で自分の顔を見ていれば、顔つきの変化だってすぐにはわからない。他人のほうがわかるだろう。
けれど、そこを言われるのは嬉しいような、恥ずかしいような。
「え、そ、そうだったんですか、すみません」
「……まぁ、本当だけど……」
謝られた。
けれどダイエットが成功して嬉しかったのは本当だったので、視線をさまよわせてごにょごにょと言うと、志月はやはり嬉しそうな顔をしたようだ。声が、ほっとしている。
「やっぱりそうなんじゃないですか」
「でもそうじゃなくて! あ、……新しいセーター買ったの!」
嬉しくはあるが恥ずかしいので話題をそらしたいと思ってしまった幸希は、自ら回答を口にした。
今日のセーター。
アイボリーでやわらかなニット。
先週、新しく買ったもの。
仕事帰りの駅隣接のデパートで偶然見つけたものだったが、一目惚れだった。形はシンプルだが、胸元のビジューがかわいらしかったのだ。値段もそれほどしなかったこともあって、数秒迷っただけで買ってしまったもの。
……勿論着るのは、今日が初めて。
「ああ……あの、」
幸希の『正解』に、志月は『思い当たった』という顔をした。
そのあと、あの、とちょっと気まずそうに言って、そのとおりの理由を口に出す。
「……去年着ていたという可能性も考えられて」