ぴぴぴ、と鳴るスマホの目覚ましで目が覚めたけれど、症状はまるでよくなっていなかった。
むしろ悪化したようで、頭まで痛くなっている。
痛い、というか頭が重い。
熱が出たのかもしれないと思って、体温計を使ってみるとそのとおり。37度と少しの微熱ではあるけれど、確かに普段より体温が高かった。完全に風邪である。
無理をすれば出勤することもできる、と思った。
けれど営業のひととは違って、幸希の仕事は基本的に急がない。それに有休もまだいくらか残っていた。
悪いけれど、有休を使って休ませてもらおう、と思う。
休ませてください、と言うのはやはりあまり気が進まなかったのだが、仕方なく店長に電話をした。
店長は「やっぱりか」と言って、「流行ってるからね」と続けた。そして「早く治せよ」と休みを了承してくれた。幸希はありがとうございます、と言って電話を切る。
もう一度布団に横になった。すぐに眠気が襲ってくる。
病院へ行こうかと思ったのだが、それもおっくうだった。
外になど出たくない。病気なのだ、メイクなどはマスクをしてサボるとしても、外に出て歩くという行為すらおっくう。
食べるものはなんとかある。買い置きのゼリーなどで誤魔化せばいいだろう。薬もある。
まぁなんとかなるでしょう、なんて楽観的なことを思って、薬を飲んで寝てしまうことにした。
薬はなにか食べなければ飲めないので、そのカップのゼリーをなんとか食べて、そして薬を飲んでもう一度寝た。
一晩ぐっすり寝たのに、また深い眠りに落ちてしまったようだ。
眠る幸希の耳に、今度はぴろりん、と違う音が聞こえた。その音が幸希の意識を少しだけ現実へ戻してくる。
ライン通知だ。
誰だろう。
そのとき思った。
志月だったら良いのに、と。
優しくしてほしかった。今は余計に。
もそもそと動いて枕元に置いていたスマホを掴んで画面を付けるけれど、ラインは母親からだった。
猫のスタンプが押されていて、『幸希、元気? お米でも送ろうか?』と何気ない内容。自分を気づかってくれるものなのに、ちょっとがっかりしてしまって幸希は罪悪感を覚えた。
エスパーではないのだから、志月が勝手に『幸希が風邪を引いた』なんてこと、わかってくれるはずもなかったのに。
『ちょっと風邪ひいちゃった』
寝たまま、ぽちぽちと返信を入力して送る。
返事はすぐに返ってきた。
『あら。病院は行った?』
『行ってない』
『仕事は大丈夫?』
『明日ダメだったら病院行くよ。ありがとう』
『動けないほどつらかったら連絡しなさいよ』
短いやり取りをいくつか続けて、それで母親とのラインはおしまいになった。スマホの画面を暗転させて、枕元にぽいっと置く。
もう一度眠る体勢になって、幸希は目を閉じる。
まぶたの裏に浮かんだのは、志月の顔だ。そういえばしばらく会ってもいなかった。
それはそうだ、幸希のオフィスが転勤ラッシュに忙しかったということは、同業である志月だって忙しいのだろう。
営業の当人である志月は自分自身がとても忙しいだろうし、おまけに主任や店長を狙っている以上、ここが力の見せ所である。いい成果をあげて、評価してもらえるようにしなければいけない。
ああ、邪魔しちゃいけないな。
思った。
でも次に思った。
……会いたいなぁ。
早く治して、それでデートのひとつでもしてもらいたかった。
むしろ悪化したようで、頭まで痛くなっている。
痛い、というか頭が重い。
熱が出たのかもしれないと思って、体温計を使ってみるとそのとおり。37度と少しの微熱ではあるけれど、確かに普段より体温が高かった。完全に風邪である。
無理をすれば出勤することもできる、と思った。
けれど営業のひととは違って、幸希の仕事は基本的に急がない。それに有休もまだいくらか残っていた。
悪いけれど、有休を使って休ませてもらおう、と思う。
休ませてください、と言うのはやはりあまり気が進まなかったのだが、仕方なく店長に電話をした。
店長は「やっぱりか」と言って、「流行ってるからね」と続けた。そして「早く治せよ」と休みを了承してくれた。幸希はありがとうございます、と言って電話を切る。
もう一度布団に横になった。すぐに眠気が襲ってくる。
病院へ行こうかと思ったのだが、それもおっくうだった。
外になど出たくない。病気なのだ、メイクなどはマスクをしてサボるとしても、外に出て歩くという行為すらおっくう。
食べるものはなんとかある。買い置きのゼリーなどで誤魔化せばいいだろう。薬もある。
まぁなんとかなるでしょう、なんて楽観的なことを思って、薬を飲んで寝てしまうことにした。
薬はなにか食べなければ飲めないので、そのカップのゼリーをなんとか食べて、そして薬を飲んでもう一度寝た。
一晩ぐっすり寝たのに、また深い眠りに落ちてしまったようだ。
眠る幸希の耳に、今度はぴろりん、と違う音が聞こえた。その音が幸希の意識を少しだけ現実へ戻してくる。
ライン通知だ。
誰だろう。
そのとき思った。
志月だったら良いのに、と。
優しくしてほしかった。今は余計に。
もそもそと動いて枕元に置いていたスマホを掴んで画面を付けるけれど、ラインは母親からだった。
猫のスタンプが押されていて、『幸希、元気? お米でも送ろうか?』と何気ない内容。自分を気づかってくれるものなのに、ちょっとがっかりしてしまって幸希は罪悪感を覚えた。
エスパーではないのだから、志月が勝手に『幸希が風邪を引いた』なんてこと、わかってくれるはずもなかったのに。
『ちょっと風邪ひいちゃった』
寝たまま、ぽちぽちと返信を入力して送る。
返事はすぐに返ってきた。
『あら。病院は行った?』
『行ってない』
『仕事は大丈夫?』
『明日ダメだったら病院行くよ。ありがとう』
『動けないほどつらかったら連絡しなさいよ』
短いやり取りをいくつか続けて、それで母親とのラインはおしまいになった。スマホの画面を暗転させて、枕元にぽいっと置く。
もう一度眠る体勢になって、幸希は目を閉じる。
まぶたの裏に浮かんだのは、志月の顔だ。そういえばしばらく会ってもいなかった。
それはそうだ、幸希のオフィスが転勤ラッシュに忙しかったということは、同業である志月だって忙しいのだろう。
営業の当人である志月は自分自身がとても忙しいだろうし、おまけに主任や店長を狙っている以上、ここが力の見せ所である。いい成果をあげて、評価してもらえるようにしなければいけない。
ああ、邪魔しちゃいけないな。
思った。
でも次に思った。
……会いたいなぁ。
早く治して、それでデートのひとつでもしてもらいたかった。