そのあともいくつか店を見て回って、そして花火を見るために食べ物を少し買い込んだ。
 フランクフルトや焼きとうもろこしなどの食事になるもの。
 りんごあめ、わたあめなどの甘いもの。
 そして最後にかき氷。溶けてしまうので早く食べないと、と一番観覧席に近い場所で買った。
 そして観覧席へと向かう。
 会場まで負担にならないようにと車を後輩に頼むほどの用意周到さだ。もしかして、と思ったがやはり戸渡が向かったのはごちゃごちゃとしていて人だらけの一般席ではなく、『関係者席』であった。チケットを出して、柵の中へ入る。
「ゆっくり見たいですからね」
 戸渡はそれしか言わなかったし、幸希もどこでそれを手に入れたのかは聞かなかった。おおかた、会社のつてであろう。
 出来た恋人にもほどがある、と感動すら覚えながら、幸希は用意してもらっていた椅子に座った。ただのパイプ椅子ではあったが、人だらけの一般席でレジャーシートなどに座ることを思えば玉座にも等しい。
 席について、花火はまだだったがかき氷を二人で食べはじめた。
 もうずいぶん溶け出している。花火を待っていたらただの色付き水になってしまうので、仕方がない。
 いちご味のかき氷。懐かしい味がした。
「いちご味が好きですか?」
「うん、昔から」
 かき氷は口に入れると、さっと溶けてしまう。冷たくて口の中が気持ちいい。
 そのあとはフランクフルトをかじったり、食べ終えてわたあめを口にしている間にアナウンスがあって、やがて沈黙が落ちる。
 ぱっと空が明るくなり、花火の一発目があがった。
 少し遅れて、どぉん、という鈍い音。わぁ、と客席から歓声が上がる。
 それを皮切りに次々に花火が打ち上げられた。
「綺麗ですねぇ」
 戸渡がしみじみと言った。
「うん。……あ、これ、ネコの形だ」
「本当だ。変わり種もあるんですね」
 言いながら手を伸ばされて、また手を握られる。
 熱い折だ。戸渡の手は汗ばんでいたけれど、ちっとも気にならなかった。むしろそれすら心地良さに変わる。
 幸希はちょっとだけ目を閉じた。
 こんな素敵な恋人と花火を見られること。
 数ヵ月前には想像もできなかった、と思う。
 花火は何発あがったかもわからなかった。
 ピンク、緑、黄色。カラフルな花火。
 きっとこの花火は今夜眠る前にまぶたの裏に浮かぶことだろう。