「ピンクが好きなんですか?」
 歩く間に戸渡が訊いてきた。
 駅で浴衣の話をした続きだ、とすぐにわかった。途中のままに水木の車についてしまっていたのだ。
 そのとおり、幸希の浴衣はピンク色に小さな花が散っているものだ。お気に入りで何度か着ているもの。
 でもピンク色を着るのにはやはり少しためらったのだ。少し前の結婚式のドレスと同じ。年齢的に。結局『デートなんだから多少かわいくても許されるだろう』と思って、思い切ったのだけど。
「さ、流石にもうかわいすぎるかなかと思ったんだけど」
 幸希の言葉を戸渡は簡単に否定した。
「そんなわけはないでしょう。いくつになってもピンク色は女性を綺麗に見せてくれる色ですよ」
 思い切ってよかったのだ。言われて幸希は、ほっとした。
 話しているうちに出店の並んでいるエリアへ入る。
 「はぐれないように気を付けてくださいね」と、きゅっと手を握られた。幸希も「うん」と握り返す。
「お腹がすきましたか? なにか食べましょうか」
「そうだね、軽く」
 もう夕ご飯の時間だ。花火大会に来たら、まずはなにか軽く食べてから見て回るのが定番。
 よってお好み焼きと焼きそばを買って、近くのベンチで食べた。
 ちょうどよく空いていたのだ。早めに着いたからだろう。
 お腹がそれなりに膨れたところで出店を見て回る。
 食べるもの以外にもたくさんの店があった。
 金魚すくい、ヨーヨー釣り、射的。定番の店がいっぱいだ。
 なんだか子供時代を思い出して、お祭はいくつになっても楽しいもの。
「僕、金魚すくいが得意なんですよ。子供の頃はお祭に行けば絶対にやって、何匹も金魚を連れて帰って水槽で飼ってました」
 言う戸渡は誇らしげだった。
「けど、今は一人暮らしですからね。飼えないですね」
「そうだねぇ、一人暮らしだとペットはね」
 通りかかった金魚すくいの屋台を見ながら話し、残念ではあったがその前は通過した。
「なにか買ってあげましょうか」
 色々見ながら、戸渡がふと言った。
 買うもの。
 候補はたくさんある。
 食べるものでも、簡単なアクセサリーでも、雑貨でも。
「私のほうが先輩なんだけど」
 でも『買ってあげる』という物言いは子供にするようなものだったので、幸希は少し膨れる。
「あはは、すみません。じゃ、沖縄長期旅行に行っちゃったお詫びってことで、ワンコインで」
「お土産もらったじゃない」
 沖縄のお土産として、大きな箱のお菓子と蛍石のキーチェーンをもらっていた。
 青と水色がとても綺麗な蛍石。今は、遊びに行くときのバッグに着けている。
 今日はピンク色の浴衣だったのでちょっと合わないかなと思って、お留守番になっていたけれど。
「それとこれとは別ですよ」
 結局押し切られた。
 ま、いいか、と幸希も受け入れることにする。
 後輩だろうが、もう彼氏だ。なにか買ってもらってもおかしくはないだろう。
「なににしよう……」