戸渡に連れていかれたのは、ピザ屋だった。なかなかオシャレな店だ。
 どちらかというと、『イタリアン』より『アメリカン』。カジュアルな感じだ。
 店内のモニターには、アメリカの映画が無音で流されている。代わりにアロハ的な音楽が店内に流れていた。
 席に案内されて、メニューを開いて戸渡が言った。
「ここ、まさに『ワンコイン』なんです。この中なら、どれでも五百円!」
 メニューの示された場所にはピザが七種類ほど並んでいた。定番のマルゲリータや、三種チーズ、パイナップルなんかが乗った変わり種まである。
「へぇ、すごいね」
「そうでしょう。しかも値段の割にはなかなかなんですよ」
 勿論、それ以上の値段がするピザやほかの料理もメニューに並んでいたので、ワンコインピザはやはりそれに見合ったクオリティなのだなというのは想像できた。どちらかというと、メインで食べるよりは大勢でやってきていくつか注文して、シェアして摘まむためのものなのだと思う。
「足りなかったら、すみませんけど」
 おずおずと言われたけれど、それは当然である。
「わかってる。自分で注文するから」
「すみません」
「ううん、私がそう言ったんでしょ」
 ちょっとだけ悩んで幸希が選んだのは、定番のマルゲリータだった。トマト味は好きなのだ。そして無難なところから攻める性格上、定番から試してみたい。
 運ばれてきたピザは、五百円と思えないほどきちんとしていた。生地もそれなりに厚みがあって、トマトソースもチーズもたっぷりかけられている。
「ん! 美味しい!」
 ぱくりと食べて、幸希は思わず言っていた。
「良かった」
 戸渡はほっとした、という顔で言って、自分の頼んだピザを食べる。それも五百円のもので、バジルソースがかかっていた。
 『ワンコイン』のディナーはなかなか楽しかった。
 勿論、話題は高校時代のことからはじまった。
 茶道部のこと、幸希が卒業したあとのこと。
 そこから大学の話を軽く聞いて、今の不動産業に入った話が締めであった。
 もう時間も十時を回っている。いい加減帰って寝なくては、明日の仕事に支障が出てしまう。
 戸渡もわかっているのだろう。自身も仕事のはずだ。適当なところで話を切り上げてくれた。なかなか気の付くことだ。
「今日は本当にありがとうございました。ご迷惑をかけてすみません」
「ううん。お礼はちゃんともらったからね」
「お礼になってれば……いいんですけど」
 戸渡は言ったが、幸希はじゅうぶん満足していた。
 駅まで一緒に行き、どうやら家は逆方向の電車らしいので構内で別れた。
 慣れたホームへ向かいながら、今日は楽しかったな、と思った。
 やはりピザだけでは物足りなくて、サラダとソーセージを自腹でオーダーしてしまった。
 でも、『ワンコイン』の選択としてはなかなか悪くなかったじゃない。
 などと、戸渡と別れた帰り道、幸希はちょっと上からの視点で思ってしまったのだった。