オリバー様はお父様とお母様に挨拶をした後、四人でお昼ご飯を食べて、私はオリバー様は庭園に行った。

「みてください、オリバー様!
蝶が赤薔薇に留まっていますわ。」

「美しいですね。」

オリバー様は何処かうわの空で答える。
先程から色々話しかけているのに、どこか不気味な微笑みを浮かべたまま何かを考え込んでいる。

「オリバー様?」

彼はやっと私を見る。

「すみません、少し疲れているようです。
少しの間独りにしてもらえませんか?」

私を見て、話してくれているのに、心ここに有らずと言える感じで、私に向けて紡がれた言葉もどこか機械的に発せられたような気がした。

「はい、わかりました。」

私は無理矢理笑顔を浮かべる。

「では、また後でお会いしましょう。」

彼はそう言い屋敷の中に入っていった。
ソフィアは一人庭園に残された。


☆☆☆☆☆☆☆☆

オリバーはソフィアと別れた後、屋敷のどこかに向かって歩いていた。

「ここで何をなされているのですか、オリバー アインベルナール様。」

デリックは厳しい口調で問う。

「少し迷ってしまいましてね。」

オリバーは少しも動揺せずに答える。

「そうでしたか。でも、その先には何もありませんよ。」

「そうみたいですね。」

彼はそう言うとデリックの横を通り過ぎた。

「何も無い事は確認済みですから...」

オリバーはそうデリックに囁き、まるで何も言わなかったかの様に澄ました顔をして、離れて行く。

「.........」

デリックは怒りに震えて、唇を噛み締める。

そう、先程オリバーがいた場所の先にはこの屋敷の最も重要な場所、秘密文書館があるのだ。
そこにはミロンヌ家が誕生してからの歴史、記録書、密書などの様々な書類が保管されていて、もし、誰かの手に渡ったら最悪ミロンヌ家が没落する可能性だってあるのだ。
だから、その部屋の存在は代々ミロンヌ家の当主しか知らない。
俺も屋敷の図書館を探している時たまたま見つけたのだ。

「俺はどうすれば良いんだ...」

もし、あの胡散臭い婚約者がこの部屋の近くにいた事を旦那様に伝えれば、俺がこの部屋の存在を知っていると知られて最悪処刑されるだろう。
でも、あの婚約者が何か良からぬ事を企んでいる事は確かだ。
それを阻止しなければ!
一か八か、旦那様に伝えよう。
俺は覚悟を決めて、旦那様の部屋に向かった。