まるで意識が闇の中から戻って来るようなとても心地良いとは言えない感覚を感じて私は目を覚ました。
首の辺りに鈍い痛みを感じて、私は先程あった事を思い出す。

「ここは...」

いつの間にか宿に戻って来ていた。
きっとデリックが運んでくれたのだろう。

「結構短い睡眠時間だね。」

デリックはそう言って立ち上がる。
笑みを浮かべ私を見下ろしているその姿は先程の彼と重なり、先程の死体を思い出し私は少し気分が悪くなる。

「大丈夫?顔色が悪いよ。」

「平気よ。
それより私が逆賊の娘ってどういう事?
それに死んだ筈って...」

私の問いにデリックは一瞬答えなさそうに顔を歪めたが、直ぐに優しく微笑んだ。
きっと彼なりの私に対する配慮なのだろうが、今の状況ではどこか不気味にしか思えない。

「それを知って、ソフィアはどうするの?」

「それは...」

私は言葉に詰まる。

「分からない...
分からないけど、知りたいの!」

私の答えに彼はため息をついて、しょうがないと言うように微笑み。
やっといつもの私の知ってるデリックになった。
アリアとレオンと別れてから彼の様子がおかしかった。
何かを隠すような。
そして、感情を悟られないように無理矢理笑顔を浮かべていたような。
デリックがいつもの、と言ってもここ何年か、オリバー様と出会ってからは見せてくれなかったが、私の知ってる雰囲気と表情に戻って、先程まで漂っていた緊張感が消える。

彼は何かを言おうとしたが、とても言いたくない事なのか、鞄から新聞紙を取り出して私に渡した。

「これを読めば多分ソフィアが知りたい事が全て分かると思う。」

私は新聞紙を読んで言葉を失った。
これ以上悪い事なんて起きないと思っていた自分が愚かだ。
もし、これが悪い夢なら、もう覚めても良いのではないか。
手の力が麻痺したように抜けていき、新聞紙が手から滑り落ちた。

「何で....
お願い嘘だと言って...」

「...... 」

私は震える手でデリックのシャツを掴んだ。

「何でお父様もお母様も何も悪くないのに...被害に遭ったのは私達なのに...
何でお父様とお母様が悪者扱いを受けるの!」

「......」

デリックは何も言わずに、私を落ち着かせるように私を抱きしめる。

「何でデリックもこの事をもっと早く教えてくれなかったの!」

八つ当たりなのは自分でも気付いている。
でも、この激しく暴れる感情を抑える事が出来なかった。

「この事を知って、その後ソフィアはどうするつもりなの?」

「分からない。
でも、憎い。
お父様に濡れ衣を着せて、悪人に仕立てた奴らが憎い!」

デリックは黙って受け入れてくれた。

「私の大切な人達の命を奪って、その上罪を着せた奴らが許せない。
でも、私にはもう何の力も無い。
それに、国が敵に回った今どこまで目的を成す事が出来るかも分からない。
それでも奴らに復讐したい。
でも、本当にそれが正しい選択かわからないの。
それに、あの日何故オリバー様がお父様とお母様を殺したのか知りたい。
オリバー様を信じたい気持ちが残っているの。」

「うん。」

「私はどうすれば良いの?
もし、私がこの事を知らなかったら、デリックはどうするつもりだったの?」

ここでデリックに頼るの卑怯なのだろう。
でも、それでも、私はこのまま何もしないで終わるのは嫌だった。
でも、誰かを傷つけるのも嫌だ。
それに、私は自分で思っていた以上に世間知らずで一人じゃ何も出来ないひ弱なお嬢様だったみたいだ。

「俺はレオンに新国にある彼の領土を託された。
もし、ソフィアが知らないままだったら、そこで静かに暮らすのも良いかなって思っていた。」

''結局知られちゃったけどね''と彼は付け足す。

「復讐か....
それも良いかも知れない。
俺も旦那様がこんな理不尽な目にあっているのが気に食わなかったし。
でも、今はとりあえず明日朝一でこの村を出られるように寝よう。
後の事は旅路で考えよう。」

「そうね。
分かったわ。」