俺は夕食の会計を済ませて外に出ると、兵がソフィアに何かを言っているのが見えた。
見たところただの見回り兵のようだ。
あの事をソフィアに知られる事は無いだろう。
俺は安心してソフィアに近づく。

「ソフィア...」

でも、俺の声は兵士の震える声によってかき消された。

「お、お前は死んだ筈の逆賊の娘...」

こんな身分の低い兵士にまで知られ渡っていたのか...
俺は心の中で舌打ちをする。
それに、伯爵が逆賊呼ばわりされるのも許せない。
俺はマントの内側に秘めていた直剣を抜き、二人の兵士を斬った。
辺りには血が飛び散り、ソフィアの頬にも血滴が掛かった。
ソフィアは唖然として俺を見る。
その瞳には恐怖の色が見える。

「デ、デリック...」

彼女の声は震えている。
死体を見るのはこれで二回目だから、慣れていないのだろう。
俺は愛しい幼馴染の前にしゃがんで、頬に付いた血を拭う。

人が来る前にここを離れないと。


「少し目を離した隙にこうなるんだから...
俺の側から離れたら危ないでしょ、ソフィア。」

良かった、ソフィアは無事だ。
それに目撃者も排除した。

「さあ、宿に戻ろう。」

宿に戻ってから説明しよう、ソフィアならきっと分かってくれる筈だ。
俺は彼女の手を取るが、振り払われてしまった。

「嫌!」

ソフィアに拒絶された。
彼女は俺に残った唯一の家族とも言える人なのに。
一瞬目眩がした。
胸が張り裂けそうだ。
手足から徐々に体が冷えていくのが分かる。

俺が絶望している間にも時は進んでいる。
遠くから足音が聞こえ、俺は最終手段としてソフィアを気絶させた。

「ごめん...」

きっと俺の謝罪は彼女の耳に届いていないだろう。
人が来る前に俺はソフィアを抱え、路地裏から宿に戻った。
幸い血がついていなかったから、「連れが酔ってしまった」と言えばあまり怪しまれなかった。

俺はソフィアをベッドに寝かせて、隣のベッドに座る。
この村に長居するのは危険だ。
明日の早朝にでも出発した方が良い。

「....ん」

ソフィアはゆっくりと目を開き、全てを思い出したのか、勢いよく起き上がる。

「ここは....?!」

まだ少し混乱しているようで、辺りを見回している。

「結構短い睡眠時間だったね。」

俺は微笑みながら声を掛けた。
内心彼女にどう説明しようか焦りながら。