「お二人さん、着いたよ。
私が連れて行けるのはここまでだ。」

私は荷馬車の操縦をしていたおじさんに起こされた。
いつの間にか隣の村に着いたらしい。
もう日が傾いている。
隣ではデリックが穏やかな表情を浮かべて眠っていた。

「デリック、起きて、着いたわよ。」

私が彼を揺すって呼びかけると、デリックはゆっくりと目を開けてあくびをした。

「もう、着いたのか... 」

デリックは目を摩りながら見渡す。
いつもしっかりしていて、抜け目の無い彼が眠そうにしているのを見て思わず笑みがこぼれた。

「どうしたの?」

デリックは不思議そうに訊く。

「なんでもないわ。」

私は笑ったまま答えた。

私たちは荷馬車から下りて、宿に向かった。

「そういえば、剣と弓はどうしたの?」

デリックは自分のと私の鞄を持っているだけで、小屋から持って来た筈の袋は見当たらない。

「短剣と長剣と弓を二組鞄に入れてある。
他は邪魔になるから売り払った。」

彼は淡々と説明するが、私は何処か申し訳ない気持ちになった。

「そんなに沢山あっても意味無いから、前々から売ろうと思っていたから、ソフィアの所為じゃないよ。」

顔に出すつもりは無かったけど、私の気持ちに気付いたのか、デリックはそう言って微笑んだ。

「さあ、行くよ。」

彼は宿に向かって歩き出した。

「ありがとう...」

私は彼の優しさに胸が暖かくなって、誰にも聞こえない声で呟いてからデリックの後を追った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆

私たちは今定食屋に来ている。
店の中はあまり広くなく、人も少ない。
この店は村の隅にあって、殆どの人が村の中心にある飲み屋さん行っている。

「人が少なくて静かだと少し寂しいわね。」

「その方人目に付かなくて好都合だ。」

彼はそう言いながら夕食を口に運ぶ。

「そうね。」

私も夕食を食べる。
昼ご飯を食べていない所為か、夕食が普段より美味しく感じられた。

「今会計してくるね。」

「外で待っているわね。」

私たちは夕食を済ませた。
私はコートを着て、外に出た。
今日は晴れていて、月が良くみえる。
部屋は一室しか借りる事が出来なかったが、宿に泊まる事が出来ただけ増しだ。
それに、お金も少ない。

「おい、そこのお前、怪しいな顔を見せろ!」

急に腕を掴まれて、フードを取られた。
服装からして、見回り兵のようだ。

「おいおい、もう酔っているのか。」

もう一人の兵は呆れたように言い、私の方を向く。

「同僚が失礼したね、すまない。
最近物騒だから、気をつけて帰るんだよ。」

彼は気づかうように言うが、私の顔を見た途端顔がこわばり、声色が変わる。

「お、お前は死んだはずの逆賊の娘...」

彼が言い終わる前に彼らの体は二つに割け、辺りには血が飛び散った。

「デ、デリック...」

声が震えて、うまく話せない。

「少し目を離した隙にこうなるんだから...
俺の側から離れたら危ないでしょ、ソフィア。」

彼の何時もの様な優しい笑みも今は不気味に感じる。
デリックは目を細めて私の前にしゃがんで、私の頬に付いた血を拭う。

「さあ、宿に戻るよ。」

彼はそう言い私の手を取るが、私は反射的に手を振り解いてしまった。

「嫌!」

デリックは一瞬悲しそうな顔をしたが、直ぐに無表情になった。
彼の様子がおかしい。
私は言葉を紡ごうと口を開いたが、首元に衝撃が走り、目の前が暗くなった。