店の扉を叩く音が部屋に響く。
デリックは顔を強張らせる。
もう、追っ手が来たのか！？
冷や汗が流れる。

「はーい、今開けるよ。」

俺の緊張にお構いなしにレオンは陽気な声で返事をしながら、立ち上がる。

「おい！」

「大丈夫、大丈夫。」

彼は宥めるように言い、扉を開ける。

「おはようございます！
頼まれていた新聞を持って来ました！」

10歳くらいの男の子が元気に挨拶をして、新聞をレオンに渡す。
息遣いからして、走って来たのだろう。

「毎日ありがとう。」

レオンはそうにっこりと微笑みながら言い、ポケットから銅貨を取り出し、男の子に渡した。

「ありがとうございます！」

彼は銅貨を受け取り、目を輝かせて走って去っていった。

「ね、大丈夫って言っただろ？」

レオンは得意げな感じの憎たらしい笑顔を俺に向けて言う。

「寿命が五年縮まった気分だ。」

俺はため息をつく。

「こんな事で寿命が縮まってたら長生きできないよ。」

「五月蝿い。それより、新聞を見せろ。」

「はい、はい。」

俺はレオンから新聞を受け取り、読み始めた。
そこには大きくミロンヌ家での事件載せられていた。

''ミロンヌ公爵家での惨殺。ミロンヌ公爵と世間を脅かす謎の集団との関わりがある可能性が高い！''

「はあー！
どういうことだ！」

何故被害者の公爵が悪者扱いされなくてはならないんだ！

「まあまあ、続きを読んで。」

俺は怒りに震えながらも続きを読む。

''オリバー アインベルナール公爵の証言では、最近ミロンヌ公爵の領地に出入りする怪しい連中が多く、それを不審に思いミロンヌ家の屋敷に行くと目が描いてあるマントを羽織った者たちが数人死んでおり、当主のアレクサンドル ド ミロンヌ公爵もミロンヌ夫人も亡くなっており、屋敷に生存者はいなかったとの事です。
そして、秘密の資料室のような部屋が見つかり、そこには沢山の貴族の情報や世間を脅かす謎の集団の情報も発見され、探偵はミロンヌ伯爵はその集団と協力関係だったかもしれないと疑っております。''

「嘘だろ...」

全てはあのオリバーの仕業だろう。
謎の集団と協力関係にあったのは彼だ、屋敷での出来事で確信している。
奴はミロンヌ公爵がその集団の事を調査しているのを知って元々邪魔だったミロンヌ家を排除しようと罪の擦り付けたんだ！

「クソ！」

俺は激怒して乱暴に机を叩いた。

「凄く悔しいし、怒っているのはわかるけど、不幸中の幸いってやつかな、一つだけ良い事があるよ。」

俺はレオンの言葉に頭を上げる。

「新聞にはミロンヌ家の者全員死んだって書いてあるでしょ。
だから、お嬢様が生きてるって俺たち以外知らない。
そしたら、ソフィアちゃんは貴族みたいな暮らしは無理でも静かに面倒事に巻き込まれる事なく一人の町娘として生きていけるって事でしょ。」

レオンは陽気な声で続ける。

「多分この町に住むのは顔が割ちゃっている可能性があるから危険だけど、俺の実家の近くの町なら顔も割てないし、洋国のいざこざとかに巻き込まれないよ。」

レオンは付け足すように俺に囁く。

「そしたら、二人で仲良く暮らせるよ。
もう、身分の違いとか無いし、長年の恋が実るんだよ。」

俺はレオンの言葉に目が見開いたのを自分でもわかった。
ソフィアと一緒に逃げて、どこかの町か村で静かに暮らすのも良いかもしれないと思っていなかった訳ではないが、ソフィアはそれで本当に幸せになれるのかわからない。
もしかしたら、ソフィアはミロンヌ家の当主になるのかもしれない。
でも、状況が変わった。
いまの状況でソフィアがミロンヌ家の令嬢と知られれば、当主になる事は愚か、処刑される可能性だってあるんだ。
それなら、どこかの町で静かに暮らした方が幸せかもしれない。

「俺の部屋に来いよ。色々渡す物がある。」

レオンは俺の思考を読んだかのようにニヤリと笑う。

「わかった。」

俺は頷いた。