つぎは、ふっくら焼けた鯵。皮はぱりっと香ばしく、化粧塩をまとった尻尾もぴんときれいに焼けている。身をほぐして口に運べば、ほどよい塩味と魚の旨味で、どんどんごはんがほしくなる。
 そして、お味噌汁。……あたたかい。
 大根からもお出汁が出ていて、やさしい白みその香りと相まって、じんわり滲みわたる。
 ほろり、と。涙がこぼれそうになる。
……いけない。私は折原くんに気づかれないようにさっと目じりをぬぐい、席を立った。
「ビール飲んでもいい?」
「どうぞ」
 冷蔵庫から冷えたビールを取り出す。ほどよくテンションをあげて、陽気にふるまっていたい。

「来年になったら折原くんも一緒に飲めるね」
「楽しみっす」
 ふふ、と笑ってプルタブをあけた。ごくごくと、のど越しを味わう。
 きんぴらの小鉢に箸を伸ばす。甘辛くて、ごぼうのしゃきしゃき感がほどよく残ったきんぴらごぼうは、お酒のつまみにぴったり。
 ごま油で炒めてあるのか、香ばしいごまの香りをまとっている。そして、後から効いてくるのが、七味唐辛子のぴりっとした辛さ。いいアクセントになっている。 
 もうひと口、ビールを飲んで。そして、缶をそっとテーブルに置いた。

「最近ずっと忙しくって。まともなごはん、食べてなかった。だからほんとうにうれしい。ありがとうね」
 折原くんに向かって、ぺこりと頭を下げた。
 こんなにおいしくて、あたたかくて、……やさしい味。
「いいっすよそんな、料理は趣味なんで。おいしく食べてくれるひとがいたほうがつくり甲斐もあるし。ていうか泡、ついてますよ。口に」
「え? や、やだ」
 あわてて、ハンカチで口をぬぐう。くくくっ、と折原くんはわらった。
「たいへんですね、やっぱ。働く、って」
「……うん」