ふと棚の上に視線を移すと、今年の誕生日に元彼からもらった香水が新品のまま置いてある。部屋の灯りが反射して、綺麗な水色の小瓶が光っている。

この香水を一度も使っていないのは、香水をつけるのが好きではなかったからだ。

十カ月という短い付き合いだったけれど、衣都自身も彼のことを全て理解していたわけではなかった。

改めて振り返ってみても、彼のどんなところが好きだったのか思い出せない。

こんな自分では、ふられて当然だと思う。


血が滲んでいるかかとの絆創膏を剥がし、祖父のいるリビングへ向かった。


「お昼ご飯なに食べたい?」

冷蔵庫を開けて中身を眺めながら弘に声をかけた。

「今日は知り合いと一緒にランチするから、衣都は好きな物食べなさい」


――ランチって。OLか!


弘は八十歳だが、時々こうして今時の言葉を使いたがり、『年寄り扱いするな』と口にする。


「知り合いって誰よ?」

「ん? ほら、あそこの神社の永介さん」

そう言われてもよく分からないが、祖父の顔が活き活きしているので楽しみなのだろうなと衣都は思った。特に深くは追及しない。