「ハーブの女王……」
「クセのない華やかな香りと、ほんの少しの甘味もあって飲みやすいんです」
衣都は湯呑の内側を眺めたあと、そこから立ちのぼる香りを味わうかのように思わず目をつむる。
「あまり気にしたことなかったですけど、確かにすごくいい香りです。甘味もなんとなく感じるような」
「ラベンダーには鎮静作用が備わっているので、不安や緊張を緩和してくれるんですよ」
顔を上げ、目を丸くした衣都に視線を合わせた響介は、そう言って柔らかな笑顔を見せた。
「もしかして、緊張してること、伝わっちゃいましたか?」
「はい。でも衣都さんだけではなく、こう見えて私もとても緊張しているんです。だからラベンダーティーを用意したんですよ。それに安眠効果もあるので、きっとぐっすり眠れると思います」
微笑む響介に、衣都の頬はさらに赤みを増しているが、目の前にいる響介を見ればそうなってしまうのも頷ける。
緑青色の着物に藍色の羽織物を身に纏っている響介の姿は、貫禄があるようにも見えるが、実は二十七歳。
キリッと男らしい眉の下には、二重で切れ長の大きな瞳。筋の通った高い鼻と、口角の上がった薄い唇。
さらに右目の下にある小さなほくろが、思わずジッと見入ってしまうほどの色気を放っている。