響介はカウンター内でミルクティーの準備をしているが、その動きはとてもゆったりとしているのに、無駄がない。
美しい所作だなと、衣都は思った。


あまり見ているのも失礼なので、窓の方に視線を向けた。

すりガラスから光は入ってくるけれど、外の景色は見えない。



「お待たせしました」

スッと伸びてきた大きくて綺麗な手。前に置かれたのは、陶器の湯呑。
衣都は一瞬首を捻った。


「ありがとうございます……」


湯呑の中を覗くと、ミルクティーから立つ甘い湯気が鼻の奥に届いた。


「湯呑なんですね」

ティーカップに入っているのが一般的だが、取っ手のない湯呑というのも味があっていい。

それに、この店にはとても合っているなと衣都は思った。


「形は様々ですが、うちで出すドリンクは全て陶器の湯呑で提供しているんです」

「そうなんですね」


ミルクティーを飲むと、紅茶の香りと甘く柔らかな味が口いっぱいに広がった。


「美味しい……」


ほどよい甘さのミルクティーが、衣都の体を芯から温める。

見上げると、嬉しそうに頬を緩ませた響介と目が合い、咄嗟にうつむいた。


「では、ごゆっくりどうぞ」



キッチンに戻って行く響介を横目で確認し、もう一度ミルクティーを飲んだ。

美味しいのはもちろんなのだが、心が癒され、なによりとてもほっとする。

今まで飲んだどのミルクティーよりも好きだなと、衣都は思った。


店主も魅力的で雰囲気のいいお店だし、ただの散歩のつもりが思わぬ収穫を得られたなと満足する。