「いらっしゃいませ」


店内を見回していた衣都は、カウンターに目を向けた。


「お好きな席にどうぞ」


着物を着た男性が、そう言ってニコッと微笑んだ。
衣都の心臓が分かりやすく音を立てる。


彼は縁結堂唯一の従業員で店主でもある、新堂響介。

端正な顔立ちの響介に軽く頭を下げ、衣都はダウンコートを脱いで、窓際の一番奥の席に座った。



椅子の座面は畳になっていて、テーブルなどの家具は見渡す限り全て木製。

店の外観はとても古いが、店内は綺麗で比較的新しい。全体的に木の温もりが感じられる、和風な内装になっていた。



衣都はテーブルに立ててあるメニュー表を眺めた。ドリンクの名前がたくさん並んでいる。

裏側を見ようとひっくり返したけれど、そこに書かれていたのもドリンク。


満腹なので食事をする気はなかったが、他にメニューはないのだろうか? そう思い、店内に視線を向けると、ちょうど響介と目が合った。


「あ、えっと、ミルクティーください」


咄嗟に注文すると、「かしこまりました」と言って微笑む響介。

それはとても穏やかで品があり、どこか色気も感じるような表情だった。