何軒か並ぶ中で、ひと際古い家屋が目に留まる。

引き戸の横には、黒い文字で『縁結堂(えんゆうどう)』と書かれた、木目が見える楕円形の手のひらサイズの表札が掲げられていた。


木造二階建ての一軒家を見上げると、大きな三角形の瓦屋根が目に入った。二階には窓もある。

こげ茶色の木目は所々黒く、とても古い建物のようだ。


時代劇に出てきそうだな。などと思っていると、目の前にある引き戸が突然ガラッと音を立てて開いた。


「ありがとうございました……」


微かにそう聞こえたのと同時に、衣都が驚いて体をのけ反らせると、中から出てきた男性が疑わしげに衣都を凝視した。


五十代くらいだろうか、所々白髪の混じった髪に吊り上がった太い眉、しわのある浅黒い肌。

ガラスのような大きな瞳をギョロッと動かすと、衣都の体は完全に固まった。


――この家の人? あれ、でもさっき確か……。


すると男性は戸を閉めながら「ご馳走様」と言って、衣都の横を静かに通り過ぎて行った。