空いているふたり掛けの席に案内され、いつもの鴨せいろを注文した。


スーツを着た男性客がほとんどの中、若い女が平日の昼間にひとりで蕎麦を食べに来るなんて変に思われないだろうかと、若干きまり悪げに水をひと口飲んだ。


五分ほどで運ばれてきた鴨せいろを食べながら、衣都は考えていた。

できるなら弘の願いを叶えてやりたいが、まだ二十三歳。
相手がいないだけではなく、結婚というものにそこまでの強い願望はないし、結婚は現実的ではない。


――好きな人もいないし。幸せってなんなんだろう……。



厨房から絶えず聞こえる調理音や賑やかな客の声。

衣都は食べる速度を上げ、おひとり様で蕎麦をすすること十分。あっという間に食べ終わった。

店内は満席になっていたので、速やかに席を立つ。


「ごちそうさまでした」



支払いを終え店を出ると、店の横に停めておいた自転車に鍵を差す。

家にいてもやることがないので、自転車を押しながら自宅とは反対の方向に進んだ。

この辺りはだいぶ熟知しているが、それでも今日は散歩してみよう。まだ行ったことのない道があるかもしれないと、少しの期待が衣都の胸を膨らませる。