電気が点いている。誰かは居るはずだ。
「はい」
扉越しに聞こえた声は、翡翠のものだった。
「く、鵠、です」
「どうした?」
玄関の扉が開いた。いつも見ている翡翠の姿があった。
それに酷くほっとした。
「どう……したんだろ」
「は? え、何だ、何かあったか」
反対に翡翠は意味なく現れた私に、困惑していた。
なんとなく玄関先を見た。うちと同じ構造の部屋。それなのに、全然印象が違う。
電気の色、置いてあるもの、匂い。
翡翠の家の玄関は、どこか、埃っぽい。
人が住んでいるのに。
「お母さん、まだ帰ってないの……?」