翡翠がどうかしたの、と尋ねる。

「何度か児相に通報されたらしいわよ」
「え?」
「隣の松田さんから聞いたの」

水の流れる音。
それが止められて、母がこちらを振り向く。
目が合って、我に返る。

「私、ちょっと行ってくる」
「え、どこに?」
「コンビ二!」

言いながら玄関に向かう。近所に出るときに履くサンダルをつっかけて、外に出た。
冬の冷たい空気が一気に肺に入ってくる。

階段をおりて、自分が泣きそうになっていることに気づいた。

五階のひとつの部屋の前で立ち止まる。息を整えて、チャイムを鳴らす。
ピンポーン、と外までその音は聞こえた。