家に帰ると溢れている物。片付けられず、そこにずっとある物。
足の踏み場のないリビングに足を踏みいれて、いつしか置いたはずの教科書を探す。
鵠閑は、高校からここへ引っ越してきたらしい。
さっきエレベーター前で、マンションの住人が話しているのを聞いた。
そうか、何も知らないから俺に近づいてくるのか。
”家のこと”を知ったら、またあの曖昧な笑みを浮かべるんだろう。
もしかしたら、憐れんでくるかも。
そうしたら、離れていくのかもしれない。
教科書を見つける。俺はこの部屋の片づけ方が分からない。
そうしたら、少し、寂しいなと思った。