(天国のパパへ




今日は、ちいちゃんの結婚式です。




あんなに小さかったちいちゃんが結婚だなんて今でも驚いています。





幼稚園、小学校、中学校、高校、大学・・・・・・。




いろいろあったけど、楽しい毎日だったなぁ。)





コンコン・・・・・・。





結婚式場の待合室のドアがノックされる。





「はーい!」




「お母さん!」




真っ白いウエディングドレスに身を包んで入ってきたのは、娘の千尋だった。




「わぁ〜綺麗!素敵だねぇー。ちいちゃん!」




「もぅ〜。その呼び方やめてよ〜。もう子供じゃないんだから〜。」




アハハハハ!




2人で笑い合う。





「お母さん!」




「何?」




「26年間、ありがとうございました!」





そう言った千尋は、いつまでも変わらない無邪気な顔で笑った。








私が、シングルマザーになったのは千尋が5歳になったばかりだった。




夫の雅貴は、交通事故で帰らぬ人となってしまった。





「ねぇママ。パパは、どこ行っちゃったの?」




幼い千尋が聞く。





本当は、悲しかった。辛かった。




だってこんなにも早く別れる時が来るなんて思ってもみなかったから。




でも私は、1人の娘を守らなければいけないのだと決めた。




だから、千尋に向かって優しく微笑んだ。





「あのね。パパはお星様になったの。」




「お星様?」




「そう。でも、パパはいつもお空から見守っているから。」




そして私は、悲しみを隠すように千尋を抱きしめた。


「ちいちゃ〜ん。朝だよ〜。」



「ん〜。」




眠たそうに返事をするちい。




「おはよ〜。」




「おはよう。ちいちゃん。」




朝ごはんのいい匂いがしてきて、ちいは鼻をクンクンとさせる。




「今日のご飯、なあに?」




「今日はね〜。ちいちゃんの好きな甘〜い卵焼きです!」




「やったー!卵焼き〜!!」




「さぁ、まず最初にやることは?」





「お顔を洗うこととお着替え!」




「じゃあ、まずは顔洗ってきて。」




「うん!分かった!」




バタバタと走って洗面所へと向かう娘を見て、クスッと笑う。




(さて、私も朝ごはんの続き、やるか〜!)






「いただきまーす!」



食器を運び終わり、席につくと、『いただきます』の挨拶をして食べ始めた。




今日の朝ごはんは、白米のご飯、ほうれん草のお味噌汁、ちいちゃんの好きな甘い卵焼き、昨日の残りのポテトサラダ、お弁当用に入れるために切ったうさぎ形の林檎だ。



「美味し〜!」




「本当?良かった〜。」




娘の食べている姿を見て、微笑む。








「美咲せんせー。おはよーございまーす!」



「おはよう。たかし君。」



自転車を走らせ幼稚園に着くと、担任の美咲先生が園児たちを迎えて挨拶しているのが見えた。




「美咲せんせー。おはようございます!」




「千尋ちゃん。おはよう!可愛いお洋服着てるね〜。」




先生は、千尋の着ているピンクのリボンが付いている洋服を見て、褒めてくれた。





「へへっ。この間ね、ママとお買い物に行った時、買ってもらったのー!」





「へぇ〜。良かったね〜。」




「あ!ちひろちゃんだぁ!」



小さな女の子の声がして振り向くと、そこには千尋の友達のなつちゃんとお母さんがいた。



「なっちゃん、おはよー!」




千尋は、なつちゃんを見つけると嬉しそうに手を繋いで教室の中へ入っていった。




「安井さん。おはようございます。」




「おはようございます。美咲先生。あら、千尋ママ。」




「おはようございます〜。いつも千尋と仲良くしていただいてありがとうございます。」




「あ〜。良いのよ〜。なつも楽しそうで、助かってるわ〜。」




笑顔で答えてくれるなつちゃんママ・貴子さんは、幼稚園に入ってからの初めてのママ友だ。




貴子さんから、ほのかに香るローズの香水の匂いがして、上品だけど奥ゆかしい雰囲気で、他のお母さん達とは少し違っていた。



だけど、私は彼女の上品な雰囲気がとても好きだった。



「はい。ありがとうございます。では、私はこれで。」




私は、ぺこりとお辞儀をすると自宅へと続く道を歩き出した。



「桜木さ〜ん!この資料、お願いできますか〜?」




先輩の後藤さんから声をかけられる。




「は、はい!大丈夫です!」




私は、中小企業・サンライズに務めている。




今は、目の前の資料作製で頭がパンクしそうだった。




カタカタと四方八方から聞こえてくるキーボードの叩く音。




電話の鳴り響く音。




私は、左手首に巻いてある腕時計をチラリと見る。




12時27分。





(ちい、ご飯食べてるかなぁ。そろそろ私もご飯食べよーっと。)