本人は人間の生態観察をしに幽世から来たと言っており、ちょうど最初に言葉を交わした人間である私は、ていよくその案内役に任命されたようだ。
 だいたい週に一度ほど、ふらりと現れては私に街案内をしろなどと偉そうに言ってくる。まぁ、仕事の後は基本的には暇だからいいんだけどさ。

「これはね、クリスマスが近いからだよ」
「クリスマス? 場所の名前か?」
「違う違う。イベントの名前」

 私の返事を聞いて、翠藍はふーんと納得したように小さく鼻を鳴らした。そして、何かを思いついたようにパッと表情を明るくしてこちらを向いた。

「分かったぞ。お前に初めて会ったときにもやっていた『みんなで騒いで愉しむ日』のようなものだな?」

 翠藍と初めて会った日は、ハロウィンの当日だった。なぜ皆が仮装しているかとしきりに不思議そうにしていた翠藍に、私は『今日はみんなで仮装して騒いで愉しむ日だ』と、かなり適当な説明をしたのだ。
 それを信じている翠藍はクリスマスもそういう日だと思ったようだ。自称あやかしのくせに人を疑う事を知らないピュアなやつである。

「うーん、正解に言うと、誕生日かな」
「誕生日?」 
「うん。昔の偉い人の誕生日をみんなでお祝いしてる感じ」

 特にキリスト教徒でもない私は、これまたあり得ないレベルの適当な説明を翠藍にした。
 そもそも、私にとってクリスマスとは小さな頃はプレゼントを貰える日、中高生になったら友達と特に意味もなくパーティーをする日、大人になったらリア充爆発しろの日である。なぜ寄ってたかって恋人同士が寄り添って愛を囁き合っているのか意味不明である。

「なるほど。初代冥王様の誕生日のようなものだな」

 翠藍は勝手に解釈を行い、自己完結して納得したようである。この人の書く『人間界の人間生態観察に関する一考』なる報告書には、一体どんなでたらめが書いてあるのだろう?
 今となっては恐ろし過ぎて聞き出すこともできない。

「日が近づいただけでこんなに明るくなるなら、当日は夜でも昼間のように明るいのか?」
「変わらないよ。当日はケーキ食べて、プレゼント渡したりするの」
「死んだ人間にどうやってプレゼントを渡す?」
「あ、違う違う。自分の大切な人にプレゼントを渡すの」
「誕生日じゃない奴にプレゼントを渡すのか?」
「うん、そう」