竜二のマンションに戻った二人
「明日何時に私は行けばいい?」
「昼前くらいに本社ビルに来て、受付には言っとくからタクシー使っていいからね、チケット渡しておく」
「わかった」
「指輪してきてね」
竜二は雫の指を触った
「ねえ、よくサイズわかったね」
「寝てる間にね(笑)」
ピンポーン
竜二が対応する
竜二は郵便物を開け雫に渡す
「これで生活費おろしてね」
「わざわざ口座作ったの?竜二さんがくれてもよかったのに」
「それも考えたけど雫ちゃんが家賃払うっていうからさ、この口座に入れとけば自動で引き落とすようにしたから」
「わかった。じゃあ管理します」
「足らなかったら絶対言って、自分で出さないでね。今度集まる時は後でみんなに少しもらうから」
「はい、ビールだけ買い物に付き合ってください。ケースで買うでしょ?」
「うん、わかった。じゃあバイトまでゆっくりしようよ」
雫に近付いてキスをする
「あのごめんなさい。やること沢山ある」
「えっ、何?洗濯物なら入れておくよ」
「夕食の準備と、えっと、じゃあバイトから帰って色々するのとどっちがいい?」
「んー、バイトから帰ってゆっくりかな?」
「でしょ?だから我慢して」
雫から竜二のほっぺにチュッとキスをした
「そんなことされたら我慢出来なくなるよ(笑)」
「っん、ダメ竜二さん」
竜二は長~いキスを雫にする
「ごめん、夜まで待つ……」
「はい(笑)」
雫は買ってきた物を片付け夕食の支度をしていた
竜二は本を読みながら時々雫に話しかけ、雫の足音を聞きながらソファーでうとうとする
雫は竜二にタオルケットをかけ静かにバイトに出掛けた
月曜日、サクラスーパー本社ビル
雫はビルの前に立っていた
「ここが竜二さんの仕事場……」
雫はビルの中に入っていった
「あの、若宮と申しますが……」
「はい、こちらへ」
エレベーターの前に案内される
「六階へお上がりください」
エレベーターが到着すると中に手招きされた
「ありがとうございます」
六階につくと目の前に真木がいた
「いらっしゃいませ、こちらへ」
部屋に案内される
「どうぞ、おかけ下さい。部長はもうすぐ来ますから」
「はい」
「可愛いワンピースですね」
「あっ、昨日買ってもらいました」
「指輪も左手の薬指なんですね」
「誕生日にいただきました」
「いつでもあのエステも利用していいですからね」
「私には勿体ないです。贅沢すぎます。まだ学生ですから」
「お若いですね、でも……」
真木は席を一度外して化粧ポーチを持って戻ってくる
「少し下を向いて」
真木は雫にビューラーをしてくれ、軽くマスカラも付けてくれた
「派手じゃなくていいから少し上げるとお顔も華やかに見えますよ」
「ありがとうございます」
「若宮様も指輪もらったのなら少しは覚悟をなさらないと」
ニコッと真木は笑った
「いつでも相談にのりますからね」
「はい??」
真木は新しい口紅を渡した
「この口紅ね、食事しても食器に着きにくいの、外での食事の時は使うといいですよ。どうぞプレゼントです」
「えっ、こんな高いものいいです」
「この間手伝ってくれたお礼と誕生日プレゼントです」
「そんな、私何もしてません」
断っていると竜二が戻ってきた
「来てたのか」
「はい、あの……」
「ん?」
真木が口紅を持っていて渡す素振りをみせる
「ああ、雫ちゃんそれ付けて」
「でも……」
真木がリップブラシを出して雫に口紅を塗る
「りゅ、ぶっ」
雫は大人しく口紅を塗られた
「それは彼女が雫ちゃんの為に選んだものだからありがたく頂くといいよ」
真木はにっこり頷いた
「色々教えてもらうといい」
(何を教えてもらうんだろう……)
「お食事になりましたか?」
「ああ、それから直帰するから」
「かしこまりました」
「何かあったら電話してくれ」
「はい」
「行くよ、雫ちゃん」
「はい」
雫は立って真木に頭を下げて竜二についていく
エレベーターに二人は乗り八階を押す
「真木さんて綺麗ね」
「まあな、秘書はちゃんと資格持ってる人を雇ってるからな。マナーも身だしなみもキチンとしている。顔が綺麗というより立ち振舞いがちゃんと出来てると綺麗に見える。真木はもうベテランだからな」
「呼び捨てはよくないよ」
「フッ、会社はね、そういうものなんだよ。わかった?まあ、まだいいけどね」
「はい」
八階に付くと別の秘書から挨拶された
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
竜二は何も言わずドアをノックして開けた
雫がドアを入ると正面に竜二の父親が座っていた
「やあ、いらっしゃい」
「あっ、こんにちは……あれ?」
竜二の方を見る
「ん?」
「お父様が……会社に?いらっしゃる……」
「うん(笑)」
三人は部屋のソファーに座った
「この間は竜二を手伝ってくれてありがとう、竜二が私服だったからさっき理由がわかったよ。誕生日だったそうだね、おめでとう」
「あっ、ありがとうございます」
「仕方なかったんだよ、日が決まる前に夏休みを取ってたんだ。祭りのことはさっきこってり絞られたからもういいだろ?」
雫は机の上に置かれていた名札のプレートを読んだ
「あの、社長さんなんですか?」
立ち上がって名刺を渡す
雫も立ち上がる
(えっ、サクラスーパー代表取締役社長、真中文彦)
雫は隣の竜二の腕をつかむ
「どうしたの?」
「竜二さん、何も言ってくれないから……すみません全然知らなくて……」
「何も聞いてなかったのかい?竜二が社長の息子ってことを?」
「は……い」
竜二は雫の腕をひっぱり椅子に座らせる
文彦も座った
「そうか……知ってて近付いたんじゃないっていうのが嬉しいよ」
「すみません」
「なぜ謝るんだね?」
「私、自分の働いているところの社長の名前も知らなくて」
雫は頭を下げた
「竜二、説明しなさい」
「彼女は若宮雫さん、サクラスーパー三沢店のバイトの子です。大学三年生です」
「大学生?左手の薬指の指輪は?」
「誕生日にプロポーズして渡しました」
「竜二、結婚は二人で決めるものか?」
「お盆が終わってから休みとって向こうの家に挨拶に行こうと思ってそれからうちに紹介しようかと思ってました。
彼女は毎日夕方からバイト入ってるから夜に時間が取れなくて……この間から一緒に住んでます。月曜日に休みにしてもらうように頼んだから……」
「雫さん、実家は?」
「あの、二時間くらい大学までかかるので一人暮らししてました。すみません勝手に一緒に住んでしまって」
「どうせ竜二が強引に言ったんだろう」
「うん、雫ちゃんは遠慮してたんだよ。全部俺が決めた」
「竜二さん急に話し方……」
「いいんだよ」
竜二は足を組む
「竜二、来週にでも向こうの家に挨拶に行ってくるんだ」
「わかった」
「大事な娘さんを預かるんだから順番が違うだろう?」
「うん、わかってる、雫ちゃんにも付き合う前に一緒に住んでって言っちゃった(笑)」
「全くそういう所がまだ未熟者だ。雫さん、実家に連絡しておいてもらえるかな?わがままな息子だがこれからよろしくお願いします」
「いえ、竜二さんだけが悪いのではないです。私もすみませんでした。こちらこそよろしくお願いいたします」
「竜二は甘えん坊だし強引だし苦労するよ」
(やっぱり甘えん坊)
竜二の方を見た
照れて下を向いている
「私も甘えん坊です。ねっ」
「食事に行こう」
「母さんとこ行くから直帰にしたよ」
「休みにしなかったのか?」
「夕方一店舗行くところがあるんだよ」
三人はエレベーターで一階へ降りた
「俺の車回してくるよ」
「頼む」
二人きりになった
「雫さん」
「はい」
「竜二をよろしくお願いします」
「いえ、とても優しくしていただいてます」
「竜二は二男なんだ」
「そうなんですか?」
「まだ、竜二からは聞いてないんだね」
「そうですね……まだお互いまだまだ知らない事だらけで夕方から私がバイトに行くのでゆっくり話す時間もなくてですね……これからです(笑)」
「私はやっぱり長男が継ぐものだと思ってたから長男がやりたい事があると大学の時に言ったときは正直びっくりしてね。
でもまだ高校生だった竜二が後を継ぐと言ってくれて」
「高校生の時からですか?」
「うん、まあ大学までは自由にやっていたが会社入ってからは必死でしてたみたいだね」
「それは聞きました。私、竜二さんは人の上に立てる人だと思いますよ。お父様に似てらっしゃいます」
「そうか……じゃあ大丈夫かな、まだまだ心配なんだが」
車がやってくる
「雫ちゃんがお寿司好きだから寿司屋でいい?」
「ああ」
寿司屋に入る
「いらっしゃいませ、真中様」
(廻らないお寿司屋さんだ。そして常連……)
「雫ちゃん、何がいい?」
「私……わからない……」
「じゃあおまかせで、彼女にはウニとイクラつけて」
「はい」
「おいひい……です」
口にいっぱい頬張って嬉しそうに食べる雫
「可愛いだろ?」
「いくつ違うんだ?」
「八才違い」
「いくら年下だからって偉そうにするんじゃないぞ」
「大丈夫、そんな気持ちになんてならないから、いつも癒されてる。料理もすごく上手いんだよ。全然外食しなくなった」
「それはいいことだな」
雫は二人の話など耳に入らず店主に『美味しいです』と話しかけていた
「人見知りしないな」
「お客さんとも楽しく話してる(笑)いつも長い列が出来るんだ」
三人は食べ終えてレジ前へ
「私の分出します」
「私が出すよ。気持ちだけ頂いておくから、ありがとう」
竜二を見る
「ご馳走さま(笑)」
「ご馳走さまでした」
「また、食事に行こうな。今度は母さんも一緒に」
「母さんか……怖いな(笑)」
「怖いの?」
「あっごめん今から行くのに……怖いっていうのは反対されるとか怒られるとかっていう怖さじゃないんだよ。自由すぎる人だからちょっと何を言い出すのかが怖いってこと」
竜二は車を運転して会社に父親をおろして母親の所へ向かった
本社ビル八階
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
「社長、コーヒー入れましょうか?」
「頼む」
秘書がコーヒーを持ってやってくる
「先程の女性は部長の彼女さんですか?」
「そうなんだよ」
「社長嬉しそうですね(笑)」
「可愛らしくてね、娘が出来た(笑)」
「お会いになったということは結婚が近いということですか?女子社員が悲しみますが(笑)」
「若いんだよ。まだ大学生らしいから結婚は卒業してからかな?でももう一緒に住んでるらしいからほぼ嫁だな」
「それは公表してよろしい情報ですか?」
「ここに連れて来たってことはいいんじゃないか?受付も通ってるし、隠したかったら家にくるんじゃないかな」
「そうですね、ではさりげなく(笑)でも受付の方がもう広まってるかもですけど」
「二男が先に嫁もらうのか……」
二人は車の中で話していた
「美味しかった~幸せ、お腹も一杯」
「寝ないでよ(笑)」
「お酒呑んでないから大丈夫。お母様のところって竜二さんのお家?」
「いや、今の時間は教室」
「教室?」
MANAKAと書かれた看板が目に入ってきた
車から降りる
「ヨガ?」
「そうヨガを教えてる」
「へぇ意外、社長婦人なのに」
「母さんが好きなことするから兄貴も好きなことやりたいって言い出したんだよ。兄貴は母さんによく似てる」
「お父様に少しだけ聞いた。竜二さんて二男なんだね。お兄様は何をしてるの?」
「通訳で世界を飛び回ってる」
「通訳?素晴らしい仕事」
「まあ、頭は俺より良かったし英語もすぐ話せるようになった。興味があったんだろうね。今は何ヵ国語話せるかわかんないけど結構色々なとこに行ってるみたい」
ドアを開けると受付の人から声をかけてきた
「あっ少々お待ちください、先生ー」
母が奥から出てくる
「後はお願いね」
「はい」
母は自分の部屋に入っていく
「父さんと食事した?」
「うん、寿司屋行った」
「若宮雫です」
「よろしくね、どうぞ座って、で?」
「彼女です。二十一才の大学生、先月から一緒に住んでます。以上、後は親父から聞いて」
「何よ、その言い方」
「だって同じこと何回も聞かれたくない、本当は一緒に紹介したかったのに」
「ワガママな息子でしょ?苦労するわよ?」
「昔の俺とは違う」
「竜二さんはワガママではありませんよ、とても可愛がってくれます。優しいです」
「竜二がねー、オレオレじゃないのね?」
「もう、過去のことだよ」
「ちゃんと私の意見も聞いてくれます。私のほうが贅沢な生活させてもらっていいんでしょうかって思います。申し訳なくて」
「いいのよ、竜二に甘えておけば……若い貴方だから甘えたいし、甘やかせたいのよ、竜二の自己満足なんだから」
「竜二さんの自己満足?」
「そうよ、竜二はね大学までは結構お金も使ってたんだけど自分が働き始めてやっとお金の有り難さがわかったのか急に使わなくなってね
その竜二があなたにお金を使うんだからあなたはよっぽど好かれてるのよ」
「でもお部屋も私の為に模様替えしてくれてこの間の誕生日にも浴衣とエステとパジャマと指輪もあっ、今日のワンピースも……頂いてばかりです。申し訳なくて」
「それは初めての誕生日だったから喜ばせたくて……夜もお祭りで安く済ませたし、雫ちゃんが遠慮しすぎなんだよ」
「だって生活水準が違うすぎるもの、だから私なんて竜二さんの隣にいていいのかなって思うんです」
「いいのよ、そういう生活に慣れていけば……私だって子育て落ち着いてヨガ始めてはまっちゃって教室開くためにお父さんにお金借りて今は返したもの。
自分がしっかりしてれば贅沢な生活しても締めることろは締めるの。じゃないと浪費家になったら困るわ。
竜二はね、一番浪費女が嫌いだもの」
「だから雫ちゃんには俺の財産を預けられるって言っただろ?俺はプレゼントとか、食事には連れていっても、調子に乗ってねだる女は嫌いだからね、でも雫ちゃんのおねだりは全然聞くよ、好きな子の頼みだもん」
「竜二さんがそれはお金持ちってオーラを出してるからいけないんだよ」
(おっ)
母はびっくりした
「だってね、食事だってそんな高いこと連れていかなければいいし、車も高いの乗ってるからお金あるって思われるんでしょ?」
「そうか……まあでも昔はそういう場所に連れていって女を判断してるとこもあったしね、実際雫ちゃんはしっかりしてるし、ちゃんと料理するし、だいぶ食費が浮いてるよ」
「若いのに料理するんだ」
「好きなんです」
「竜二がそんなにプレゼントをしたがる女の子に出会ったって事だから有り難くいただいときなさい(笑)趣味もあんまりないし、車しか興味ないんだから」
「竜二さん無趣味?家では難しい本読んだりテレビ見たりくらいだよね」
「仕事やってたら本読むようになったかな~今は本読むのは基本好き。他にも趣味あるよ」
「何?」
「テニス」
「でもテニス行くって聞いたことないし、ウェアとか洗濯もしたことないよ?」
「もうすぐ始めるよ。忍と一緒に毎年秋に大会があるんだよ。それに出るんだ。だから今度集まるの」
「そうなの?」
「そう」
「そういうことらしいです(笑)」
「雫ちゃんは趣味は?」
母親が尋ねてきた
「私はですね、家事全般です」
「珍しいわね(笑)」
「何か家事してると落ち着くんです」
「私は苦手ね」
「雫ちゃんの料理は美味しいよ」
「今度食べさせてね」
「はい!」
「ヨガは興味ない?」
「ありますよ。背筋が伸びそうで気持ちよさそうです」
「よし、行ってみよう」
母親は立ち上がった
「えっ、おい!」
「これに着替えてきて」
服を渡された
「竜二さん、私やってみたい」
竜二は時計を見た
「じゃあ一店舗顔出して仕事終わらせてくるからここにいるんだよ」
「いいの?」
「母さんには逆らえない……母さん、雫ちゃんいじめないでよ」
「いってらっしゃい〜」
(はあ、さっさと仕事終わらしてこよう)
夕方、竜二が戻ってきた
「あっ、竜二さんお疲れ様。お仕事終わった?」
雫は竜二の姿を見ると駆け寄った
「終わったよ、ヨガはどうだった?」
「楽しかったです。これウェア頂いたの」
「通うの?」
「うん、駄目かな?」
「月曜しか空いてないだろ?俺が雫ちゃんといたいのに……」
「竜二さんが帰ってくるまでに終わるから、ここなら大学から電車で通えるし……駄目?」
「さっき、雫ちゃんのおねだりは聞くって言ったばかりだしなー、まあ、雫ちゃんがやりたいのならいいけど……母さんに無理やり言わされてない?」
「言ってないわよ(言ったけど)」
「わかった。でも月曜日教室終わってから雫ちゃんを誘わないでね」
「今は夏休みなので夕方までなら来れます」
「いつでもいらっしゃい、私がいない時でも出来るように手配しておくわ」
「ありがとうございます」
(まあ、楽しそうだし……いいか)
二人は車に乗りマンションへ帰った
次の週の月曜日には雫の家に挨拶に行き快く承諾を得る
帰りの車中
「なんかあっさりオッケー出たな。学生だからもっと反対されるのかと思った」
「やっぱり大手スーパーの息子っていう肩書きがあるからじゃないかな。それに一緒に暮らすなら仕送りしないって言われたから、これから弟にいるし……私もいいって言っちゃったしね。
あっ、バイト代から家賃は払うからね。心配しないで」
「俺は別に家賃もいいんだけど雫ちゃんが気を遣うならと思って……でも無理はしないでよ。ちゃんと無理なら言って」
「はい」
夜
「雫ちゃん、お風呂どうぞ……あれ?」
寝室を覗いたがいなかった
(部屋?)
コンコン
ドアを開けた
「雫ちゃんお風呂空いたよ、どうぞ」
「あっ、はい」
雫は浴室に向かった
竜二は本の間に通帳を挟んであるのを見付ける
(ごめんね、雫ちゃん)
竜二は雫の通帳を見た
(仕送りがなくなるってことは……携帯代と、定期もしてるのか。雫ちゃんしっかりしてる……バイト代から家賃を引くとあまり残らないか……俺が1日減らしたし)
竜二はリビングで考えた
(生活には困らないが……春まで様子みようか……)