「真木さんて綺麗ね」

「まあな、秘書はちゃんと資格持ってる人を雇ってるからな。マナーも身だしなみもキチンとしている。顔が綺麗というより立ち振舞いがちゃんと出来てると綺麗に見える。真木はもうベテランだからな」



「呼び捨てはよくないよ」

「フッ、会社はね、そういうものなんだよ。わかった?まあ、まだいいけどね」

「はい」

八階に付くと別の秘書から挨拶された

「いらっしゃいませ」

「こんにちは」



竜二は何も言わずドアをノックして開けた

雫がドアを入ると正面に竜二の父親が座っていた

「やあ、いらっしゃい」

「あっ、こんにちは……あれ?」



竜二の方を見る

「ん?」


「お父様が……会社に?いらっしゃる……」

「うん(笑)」

三人は部屋のソファーに座った



「この間は竜二を手伝ってくれてありがとう、竜二が私服だったからさっき理由がわかったよ。誕生日だったそうだね、おめでとう」



「あっ、ありがとうございます」

「仕方なかったんだよ、日が決まる前に夏休みを取ってたんだ。祭りのことはさっきこってり絞られたからもういいだろ?」


雫は机の上に置かれていた名札のプレートを読んだ


「あの、社長さんなんですか?」

立ち上がって名刺を渡す

雫も立ち上がる



(えっ、サクラスーパー代表取締役社長、真中文彦)


雫は隣の竜二の腕をつかむ

「どうしたの?」

「竜二さん、何も言ってくれないから……すみません全然知らなくて……」



「何も聞いてなかったのかい?竜二が社長の息子ってことを?」

「は……い」


竜二は雫の腕をひっぱり椅子に座らせる


文彦も座った



「そうか……知ってて近付いたんじゃないっていうのが嬉しいよ」

「すみません」

「なぜ謝るんだね?」



「私、自分の働いているところの社長の名前も知らなくて」

雫は頭を下げた


「竜二、説明しなさい」


「彼女は若宮雫さん、サクラスーパー三沢店のバイトの子です。大学三年生です」


「大学生?左手の薬指の指輪は?」



「誕生日にプロポーズして渡しました」

「竜二、結婚は二人で決めるものか?」



「お盆が終わってから休みとって向こうの家に挨拶に行こうと思ってそれからうちに紹介しようかと思ってました。

彼女は毎日夕方からバイト入ってるから夜に時間が取れなくて……この間から一緒に住んでます。月曜日に休みにしてもらうように頼んだから……」



「雫さん、実家は?」

「あの、二時間くらい大学までかかるので一人暮らししてました。すみません勝手に一緒に住んでしまって」

「どうせ竜二が強引に言ったんだろう」

「うん、雫ちゃんは遠慮してたんだよ。全部俺が決めた」



「竜二さん急に話し方……」

「いいんだよ」

竜二は足を組む



「竜二、来週にでも向こうの家に挨拶に行ってくるんだ」

「わかった」



「大事な娘さんを預かるんだから順番が違うだろう?」

「うん、わかってる、雫ちゃんにも付き合う前に一緒に住んでって言っちゃった(笑)」



「全くそういう所がまだ未熟者だ。雫さん、実家に連絡しておいてもらえるかな?わがままな息子だがこれからよろしくお願いします」

「いえ、竜二さんだけが悪いのではないです。私もすみませんでした。こちらこそよろしくお願いいたします」



「竜二は甘えん坊だし強引だし苦労するよ」



(やっぱり甘えん坊)

竜二の方を見た

照れて下を向いている

「私も甘えん坊です。ねっ」



「食事に行こう」

「母さんとこ行くから直帰にしたよ」

「休みにしなかったのか?」


「夕方一店舗行くところがあるんだよ」

三人はエレベーターで一階へ降りた

「俺の車回してくるよ」

「頼む」