あたりも暗くなり、女も見飽きたので、元いた場所に戻ると、火打ち石が置いてあった。
前居た誰かが置いていった。もしくは置いたまま逝ったものだろう。日は出ていなかったが、傾くにつれ、寒さが増したので、それを使って火を起こした。床がボロボロになっていたため、火をつけるものは苦労しなかった。
そして松明をかけるところがあったのでかけて座っていた。1人になると嫌でも脳は考えることを辞めなかった。考えたのはあの女のことであった。嘘をついたからこんな場所に捨てられたのだ、自業自得だ、死んで当然だったんだ。そんなことを考えるともう止まらなくなり、気がつくと女の枕元に立っていた。そして徐にしゃがみこみ、髪の毛を抜き始めた。一本一本恨みを込めて抜いていたが、女が自分に害を与えたかと言われるとそうではなく、完全な八つ当たりであった。この世の全ての不条理に。
心の八割が憎悪に変わったころ、すぐ夢から覚めるような出来事があった。
ここには命がある者は自分しかいない。と言うことは火を見るより明らかであり、考えもしてみなかったことだった。

若い男が目の前に立っていたのである。