どの道近くには死ぬつもりだったので、ここで死のうと老婆は決心した。
死のうとしただけであったので、何か行動を起こす訳でもなく、ただ、何もせず、今まであの男のせいで蔑ろにされた人生のツケを、この世の誰でもない誰かに払わせているだけであった。
鼻も慣れた頃、この広い羅生門を歩いてみることにした。等間隔ではない幅で死体が置いてあったので、逆に芸術的な気がした。とくにすることは無かったので直ぐ暇になった。その内、かつて生きていた彼らがどんな人生を送っていたのか想像してみることにした。
あの男はまだ綺麗ななままなのでここへ捨てられてまだ間もないだろう。きっと楽しい人生を歩んだに違いないと思ったが、その考えはすぐ修正した。楽しい人生を歩んでいたのなら、こんな所に捨てられるはずがないからである。
そしてこう思った。そうか、ここにいる死体共は自分と同じなのか、と。
みんなありとあらゆる苦痛を受け、結果ここに捨てられた。そう思うと、当てもなく歩いた末に着いたのが羅生門なのが一気に理解出来た。4人目の人生を想像し終えて、次の死体を見つけた途端、少し衝撃だった。この女は見たことがあった。蛇を切って干したのを魚だと偽って売っていたあの女だ、自分も夫の借金を返すために働きに出ていたため、このことを知っていた。そうしたらここにこの女がいるのは当たり前だと思った。