「俺は子どもの頃、夜遅く、よくこの辺りを通っていた。
 塾からの帰り道なんでな。

 すると、ある日、たまたま、この駄菓子屋に迷い込んだ」

 たまたま迷い込んだって妙な言い方だな、と壱花は思う。

 そんなに入り組んだ路地でもなかったが、と外を振り返ってみたが、薄暗い公園が見えるだけだった。

「俺は駄菓子なんぞに興味なかったんだが、友だちが買いたいと言うから」

「社長、友だちいたんですか」
と思わず言って、

「……おかしな合いの手を入れるな」
と睨まれる。

「ばあさんがひとりで店番してた。
 のんきに帳簿見ながらパチパチそろばん弾いてるから。

 そのくらい簡単に暗算できると、ちょっと小生意気な態度で計算して見せたら」

『ほう、坊主。
 使えるじゃないか。

 よし、この店をお前に任せよう』
と言われたんだ」

「そのどこが呪いなんですか。
 雇われ店長になったって話ですよね?」

「小学生のときも中学生のときも、大人になっても、社長になっても、決まった時間になると、ここに勝手に転移してるんだ。

 っていうか、お前、今、ふらっと入ってきたが、ここ、通常の空間と違うからな」

 そういえば、と気がついた。

 さっき、いきなり天井から、にょろんと手が伸びて社長のお面を外したような……。