「なに寄り道してるんだ。
 まっすぐ帰れ」

 倫太郎はまるで小学生を叱るようにそんなことを言ってきた。

「社長、いつも忙しくて睡眠不足だと言っているのに、こんなところでなにしてるんですか」

 そう壱花は訊いてみた。

 壱花は倫太郎の秘書なのだが、秘書といっても一番下っぱなので、雑用ばかりで、倫太郎との交流はそうない。

 すると、倫太郎は拾ったキツネの面をレジ台に置き、丸椅子に腰掛けると、仕事中と変わらぬ真面目な顔で言ってくる。

「呪いなんだ」
「呪い?」

 やり手の社長の口から呪いという言葉が飛び出すことがまず不思議だったが。

 まあ、こんなところで社長が駄菓子屋をやっていることがまず不思議なので、社長室で言われるほどの違和感はなかった。