ふうん、とおばあさんは、まじまじと壱花を見ていた。

 駄目かな。
 わたしじゃ、この目利きっぽいおばあさんに見込まれそうにない、と思ったとき、ん? とおばあさんが壱花の後ろを見た。

 黒いカラスのようなものが店の前を横切っていった。

「よし、閉店の時間だね。
 わたしは残業はしない主義なんだ」

 そう言い、おばあさんは帳簿を片付けはじめる。

 立ち上がったおばあさんは背の高い倫太郎を見上げ、
「ふん。
 店は狐に任せてきたね。

 あれはいい狐だ。
 男前だし」
と言った。

「あの狐に任せたのは、壱花だ」
と倫太郎が言うと、そうか、とおばあさんは笑う。

「店はどっちがやってもいい。
 好きにしな。

 閉店だよ」
とおばあさんは二人の前で、ぱちんと指を鳴らした。