「まあ、あんたなら、自分の仕事をやりながらでもできると思うがね。
 私が見込んだ子だ」

 見込まれたんだったのか……と思ったとき、倫太郎が壱花を振り向き、
「このばあさん、浪岡常務より俺のことを認めてるぞ」
と言ってくる。

 倫太郎の父親が社長をしていた頃から今の会社にいた浪岡は、倫太郎には厳しい。

 今はグループの別の会社の会長をしている倫太郎の父から、指導してやってくれと頼まれているからのようだった。

「嬉しいのなら、そのまま続けたらいいじゃないですか」
と壱花は笑った。

 だが、と言いかける倫太郎に、壱花は言う。

「普段はわたしが店主をやりますよ。
 社長はお疲れでないときだけ、いらっしゃればいいじゃないですか」

 あのあやかしの訪れる空間が倫太郎にとっても癒しの場所となっているのだろうと壱花は思っていた。

 この世ならざる者と、子どものころ触れられなかった物に囲まれたあの場所が――。