「なんだかわかりませんが、ちょっと行ってみましょうっ。
 狐さん、あとお願いしますっ」

「はあ、まあ、行ってらっしゃい」
と狐の人は言ってくれたが、倫太郎は、

莫迦(ばか)、お前っ。
 狐に店を任せる奴があるかっ。

 化かされるぞっ、化け化け壱花っ」
と叫んでくる。

「いやいや、お狐様は商売繁盛の神様じゃないですかっ。
 っていうか、なんですか、化け化け壱花ってっ」
と叫び返しながら、壱花は店の外に出た。

 ひんやりとした夜風の吹く中、あの鏡に鳥居を映した壱花は、その見えない鳥居をくぐるように歩く。

 鳥居の先にぼんやりと見える灯りへと向かって。

 すると、引きずられて行きながら、倫太郎が言ってきた。

風花壱花(かざはな いちか)
 化けの字が二個も入ってるじゃないかっ」

 ……言われてみれば。

 ここに引っ張り込まれるのがぴったりな名前だったな、と今更ながらに思ったとき、倫太郎が訊いてきた。