だが、実は壱花がコートの前を閉めない理由はもうひとつあった。

 最近、ちょっと太った気がするので、スリムなこのコートの前を閉めると、ちょっと苦しいのだ。

 だが、とりあえず、その事実を抹消してでも、今は甘いものが食べたい。

 ついでに、ここがポイントなのだが、『人がいれてくれた』温かい紅茶も飲んで、ほっこりしたい。

 壱花の頭の中に浮かんでいたのは、休みの日に友人と行った店の英国式アフタヌーンティーセットだったのだが。

 このままいつものように直進してバス停に向かうのが嫌で、なんとなく曲がった路地の先に見えたのは小さな商店だった。

 ビルの横、公園の手前に唐突に現れた灯り。

 赤い提灯がさがっているので、飲み屋のようにも見えるが、駄菓子屋のようだった。

 色とりどりのお菓子が店先に並び、天井から玩具の銃やおめん、アーチェリーなどがぶら下がっている。