なにか強烈に甘いものがいる、と思いながら、壱花は夜のオフィス街を歩いていた。
ちょっと美味しいものを食べたり、お風呂をいい香りのシャボンであわあわにしたくらいでは、この仕事の疲れは癒せない。
このまま仕事を続けるには、なにか潤いがいる。
そう壱花は思っていた。
今日の昼休み、会社の化粧室で前髪に白髪を一本見つけ、思わず、
「しんちゃん、わたし、会社辞めるね」
と呟いて、可愛い後輩を、ええっ!? と驚かせてしまったことだし。
このままでは、周囲にも迷惑をかけてしまう。
なにか心癒される甘いものとかないだろうか、と壱花は考える。
温かい紅茶とかも飲みたいなあ。
買ったばかりの可愛い藤色のコートの前をかき合わせ、壱花はいつもの帰り道を早足に歩く。
このコート、前を開けている方が可愛いので、閉めないでいるのだが、やはり開けたままでは夜風が身に染みる。
お洒落は我慢というが、我慢できない年になってきたとしみじみ思っていた。