それから、なんとなく二人で並んで店番をしていた。

「お前が来たら、ちょっと現実の景色が濃くなった気がするな」
と倫太郎が入り口の厚いガラス戸越しに外を見ながら言う。

「もしかしたら、ここにいる人間の比率が高くなると、店が人の世界に近くなるのかもしれないな」

 そう言ったあとで、倫太郎は夜道を見ながら、ぼんやりと呟く。

「俺はあの日、迷い込んでから。
 ずっとこの店になにかを(とら)われたままで、未だに家に帰れてない気がするんだよ」

 もちろん、実際には帰っているのだろうが。
 ここに囚われて離れられないなにかがあると言うのだろう。

 しかし、小学生で、ここに迷い込むとかどんだけ疲れてたんだと思うが。

 まあ、若くして社長を任されるような一族だ。
 家でも大変なんだろうというのは、庶民の壱花にも想像できた。