「だが、子どものころの自分なんて思い出したら、今の自分と比べて嫌にならないか?」

 まあ、俺なんて、たいして自由のない子ども時代だったから、そう変わりはないが、と呟いたあとで倫太郎は言う。

「そういえば、駄菓子の思い出なんて、その塾帰りに見たこの駄菓子屋くらいしかないな」

「きっと疲れたサラリーマンくらい疲れてたから、ここに迷い込んでしまったんですね」
と壱花は苦笑いしながら、同情気味に言った。

 そんな話をしているうちに、客が来た。
 普通の親子連れだ。

 優しそうなパパとママ。
 それに二人の子どもたち。

 店内を楽しく見て周り、レジに来る。
 普通に買って出て行った。

「なんだ、疲れたサラリーマン以外のお客さんも来るんじゃないですか」

 そう壱花は、ホッとして笑った。

 だが、倫太郎はやけに熱心に今の家族が払っていったお金を見ていた。

「どうしたんですか?」

「いや、奴らが払う金は葉っぱなときがあるからな。
 これはどこかに供えられてた金かな」

 ちょっと泥がついている、と言ったあとで、
「あれは狸の親子だ」
と教えてくれた。