飲みすぎた父は起きれずに次の日はお店を臨時休業した。遅い時間になってしまったからと言って、母に言われて彼もちゃっかり泊まって行った。

彼は鬼の血筋を引いているからか、お酒に強く酔っている素振りなどない。確かに鬼って、お酒に強そうなイメージはある。

起きられない父はさて置き、母と妹と四人で朝食をとった後、私達は出かける事になった。

「たまには有給という制度も取らなくてはなりませんよね」

「そうですね…」

彼が出かける前に着替えをしたいと言って居たので、自宅に立ち寄る。自宅は高層マンションに有り、都心が良く見える。

現代の鬼は有給消化もするし、IT企業に務めて高層マンションに住んでいるのだよ、と古き良き時代の鬼達に教えてあげたい。…と言っても、平均寿命が400歳ならば、少なからず三世紀は跨いで生きているのだから、現代の流れに上手く乗って生活をしている御老人の鬼も存在しているのだと思う。深く考えれば考える程に面白い事案である。

彼はシャワーも浴びたいと言って浴室に居るので一人きり。男性の自宅に上がった事など無かったので、リビングのソファーに座って居ても落ち着かないし、高層マンションの景色がより一層、落ち着きを無くす。

皇大郎さんてお金持ちなのね……。私の暮らしとは雲泥の差だわ。どんなに店のパンを気に入ったからって、収入源を減らしてでも修行する必要はあるのかな?

待っている間にソファーに座りながら部屋を見渡して居たのだが、数々の書籍がリビングに並んでいた。沢山、勉強して大学に入ってIT企業に務めているのに、パン屋で修行だなんて勿体ない。私には到底、理解出来ない。脱サラに反対!

「あ、お茶も出さずに真っ先にシャワーを浴びに行ってすみません…!早く出かけたかったもので…」

「どうぞ、お構いなく」

彼は髪をバスタオルで拭きながら、私服姿で私の前へと現れた。服は着ていても、濡れている髪が色っぽさを増す要因となっていて正視出来ない。