買い物袋を片手にまとめて、私の頭に左手を伸ばして撫でられる。「愛おしい…」と呟いた彼は自分の方に抱き寄せようとした。そのまま場に流されてしまいそうだったが、彼に「荷物、重いですから全部持って下さいね」と言って買い物袋を全て渡して走り去った。

彼に恋をしている。どうしようもなくドキドキして、キュンとして、まるで初恋の様に甘酸っぱい。

まともに顔を見れなくなって来た。見つめられると恥ずかしくなり、顔が火照り始める。

自宅に戻り、母と一緒に料理をして、皆ですき焼き鍋やその他の料理を囲んだ後も彼と父はまだお酒を飲んでいる。意気投合した二人はとんでもない事を言い出した。

「桜花ー、皇ちゃんと結婚して店を継いでくれたら、お父さんは安泰だぞー。皇ちゃん、桜花はな、パン作りはてんでダメで修行にもならなかったんだ。妹の夏菜は継ぐ気もないしなー」

「私も桜花さんとお店を一緒に支えて行けたら嬉しいです。勿論、結婚前提の話です」

何故、皇ちゃんとか呼んでるの?悪かったわね、パン作りの素質が無くて!それに比べて皇大郎さんは土日に手伝いに来てくれているけれど、手際は良いし素質もあるらしい。私は素質が無いから、売り子で充分よ。

「皇ちゃんが貰ってくれるなら、桜花はいくらでもあげるぞ。このままだと行き遅れになりそうだからな。皇ちゃんみたいなエリートイケメン、桜花には勿体ないかー!」

「いえいえ、私が桜花さんを気に入ってるのですよ。パンも美味しいのですが、店番している彼女に癒されて、毎日の様に通っていたのも事実です」

「おっ!皇ちゃんは見る目ないねぇ。桜花なんて、お母さんみたいに胸はないし、女らしくもないんですよ。愛嬌しかない娘で本当にすみません!」

父よ、娘をけなしているけれど…本当に嫁として薦めているのか違うのかどっち?この後、更に母と妹も加わり、話がヒートアップした。