彼が帰った後に母と妹に根掘り葉掘り聞かれたが、彼が鬼の末裔だと言う事や結婚の申し込みをされた事などは言えるはずも無く…、当たり障りのない話だけをした。

私の右肩に取り憑いていた何者かを退治して貰ったと伝えて、災難続きだった事を知っていた二人は心底良かったと言っていた。やはり、二人も霊媒師だと勘違いしている。

次の日、父が起きてからも同じ話をしたのだが、父は面白くなかった様だった。私が遅い時間に男性と出かけたのが気に食わないらしい。
いつもの常連客だと言っても、「それとコレは別だ」と言って聞く耳を持たない。

あーぁ、お父さんって本当に頑固だし、娘に対して過保護なんだよね。私はもう22歳なんだから、彼氏が居たっておかしくないのにな。

私は過去に一度、高校生の時に彼氏が居たっきりで、それから現在迄、おひとり様状態。

彼、皇大郎さんは嫌いじゃないけれど…私には釣り合わない位に美青年だし、それに鬼の末裔だし。折角訪れた恋のチャンスなんだけれども、前途多難な様な気もする。

出来上がったパンを並べながら、彼の事を思い出してしまう。並べているパンが彼の大好きなクリームメロンパンだから余計に思い出しては感慨にふける。

彼と外で会う約束をしたけれど、何時なのかは決めてなかった。携帯番号も何も知らない。話をするには彼が店に足を運んでくれるしかないのだ。

小さな溜め息をついた時、店の扉が開いてカラランッとカウベルの音が鳴った。