風も無いのに木々がゆらめく。木々の間からは微かな金色の光が見えるのに、ガラスの床は緑色に染まっている。
 時刻は正午過ぎくらいだろうか。
 目を閉じれば木々の匂いが、音が、暖かさが感じられた。外から感じるのではなくて、体の内部から湧き上がってくるようだった。
 木々の揺れる音が少しおさまったところで、私は口を開いた。
「明さん。大地さん」
 木々に眠気を誘われていたのだろう。少しぼんやりとした顔を上げて、私と目を合わせる。
「二人はお互いのこと、よく知ってるように見えるんですけど。どうして?」
「ああ」
 そんなことかというように明さんは笑って言った。
「大地は私の彼氏だし。元、だけどね」
 大地さんも、面倒そうに頷く。私はつい不思議そうな顔をして問いかけた。
「元?」
「そう」
 そっけなく大地さんが答える。
「もう別れたから、今はただの他人」
「ひどいわね」
 明さんが意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「ただのって、ねぇ。いつも私のこと見てたじゃない」
「嘘言うな」
 大地さんは鋭く明さんを睨みつけた。けど明さんは動じた様子もなく、目を細めて笑うだけ。
「まぁいいけどね。私もそれなりに楽しかったわよ」
「黙ってろ」
 大地さんは本気で怒っているようだった。明さんは軽く肩をすくめて、ちらっと私の方を見る。
 気遣わしげな目に私の意思が通じたらしい。明さんは苦笑いして私に諭した。
「気にしなくっていいのよ。なんとなく付き合ってただけだから。ね、大地」
 明さんの答えはあっさりとしていて、未練とは無縁に思えた。
 私は首を傾げて、ぽつりとつぶやく。
「別れるというのは辛いことですよね」
「さあ。普通に付き合ってたら辛いんじゃないか?」
 俺に聞くなよと言わんばかりに顔をしかめる。あまり触れて欲しくない話題らしい。
「なんでそんなこと訊く?」
 私は一瞬迷ったけど、ここまで問い詰めたのなら仕方ないと思い直す。
「私のお父さんとお母さん、私が小学校に入る前に離婚したんです。明さんたちみたいにお互い割り切れるならいいけど、二人の場合は違った」
 私は覆い被さるような大木を見上げながら、くしゃりと顔を歪める。
「原因は私だった。私のせいで、二人はバラバラになっちゃった」
 きらめく金色の光は、まだ遠いところにある。
「けどお父さんは強かったから、新しい家庭を築けた。……私が上手く溶け込めなかっただけで」
 力強く脈動する幹にそっと触れる。
「次の記憶は中一の冬。私のお父さんと新しいお母さん、義理のお兄ちゃんと迎えた、お正月の記憶」