翌日は休養日になっていた。
 千町高校では午前中に軽い練習をして翌日の試合に備えた。
 ――――――練習後
「お、おぉ。すげぇな。どうしたんだ、これ?」
 山積みになった段ボール箱を目にし、大智は声を上げた。
「差し入れ。これまでも結構貰ってたんだけど、今日は一段と多いよ」
 差し入れを整理していた紅寧が答える。
「ここまでしてもらうと何か申し訳ねぇな」
「そうだね。でも、皆嬉しんだよ、きっと。なんたって創設以来初のベスト四だもん」
「それもそうだな。じゃあ、ありがたく頂いとくか」
「うん」
「手伝うよ」
「いいよ。大兄は早く帰って休んで。明日も先発なんだから少しでも体を休めておかないと」
「大丈夫。紅寧こそデータ集めに分析、マネージャーの仕事で疲れ溜まってるだろ。早く終わらせて一緒に帰ろうぜ」
「大兄……。ありがとう。じゃあ、これをあっちにお願いしていい?」
「よし、きた」
 大智は張り切って段ボールを移動させようとする。
「ちょっと待った!」
 突然紅寧が大声で叫んだ。
「な、何!?」
 大智は驚き、呆然としている。
「手袋、はめてないでしょ。明日試合なのに、手、怪我したらどうするの! そっちに軍手があるからそれはめて」
「は、はい」
 大智はすぐさま紅寧に指示された場所に軍手を取りに向かった。
 するとそこへ一年生がやって来た。
「春野さん、俺らがやるんで帰って休んでください」
 数人いる中の一人が代表して言った。
「いいよ。お前らこそ、早く帰って休みな。試合中はずっと炎天下にいるから、思ったより疲れが溜まってるだろ?」
「いえ、全然大丈夫です。春野さんの力投に比べたらあれくらいへっちゃらです」
「いいから、いいから」
「いえ、そういうわけには」
「遠慮せずに帰りな」
「じゃあ、せめて手伝います」
「いいって」
「でも……」
 一年生は頑なに帰ろうとはしなかった。
「たくっ……、気がきかねぇなぁ。状況を察しろよ」
 大智はそう言うと紅寧に目を配せた。
 代表して大智と話をしていた一年生は大智の視線を追った。
「あっ。……す、すみません」
 代表の一年生は大智の意を察したようで、慌てた様子を浮かべていた。
「わかったなら、ささっと帰りな。明日も元気な応援頼むぞ」
「はい。ではすみません。お先に失礼します」
「おう。お疲れ」
 大智は一年生を見送った。
「どうしたの?」
 倉庫の中で整理をしていた紅寧が顔を出す。
「一年が代わるって言うから拒否して帰らせたとこ」
「え? どうして? 代わって貰えば良かったのに」
 紅寧は不思議そうに首を傾げている。
「良いんだよ。あいつらだって初めての夏で疲れが溜まってるだろうしな。それに、何となくこれがやりたい気分なんだよ」
「たくぅ……」
 紅寧は呆れたように息を吐く。
「じゃあ、さっさと終わらせるよ」
「よっしゃ」
 大智は笑顔で差し入れの整理を始めた。
 大智と紅寧は結局二人で差し入れの山を片付けた。
 片付けが終わり、学校を出る。
 すると校門の前に、何やら人が集まっているのが見えた。
「ん?」
 大智と紅寧は互いに見合って、首を傾げた。
「おぉー。ようやく主役の登場だ」
 一人の年配の男性が声を上げると、一斉に拍手と声援が飛び交った。
 あまりに突然のことに大智と紅寧は呆然として固まっていた。
 その間も集まった人々からの声援は続いていた。
 すると、大智の目から一粒の涙が零れ落ちた。
「大兄?」
 紅寧は偶然それを目にしていた。
「わ、わりぃ。何か嬉しくてな。こうなることを夢見てここへ来たから」
 大智はこれ以上は涙が零れ落ちないようにと、上を向いていた。
 そんな姿に紅寧も目を潤ませている。
「大兄……。泣くのはまだ早いよ。本当に夢に描いて姿はまだまだこれからでしょ?」
 そう言いつつ、紅寧の目からも涙が零れ落ちていた。
 大智は上に向けていた顔を元に戻すと、潤んだ目を拭った。
「紅寧だって泣いてんじゃねぇか」
 涙を拭たばかりの顔で大智は笑う。
「だって……。大兄がそんな姿見せるから」
 紅寧は涙を拭った。
「でもそうだよな。今はまだ夢半ばだもんな。もっと多くの人に応援してもらって、もっと多くの人に夢と希望を与えられるようにならねぇとな」
「うん。頑張ろうね」
 紅寧はまだ潤んだ目でニッコリと笑った。
「あぁ」
 大智は微笑む。
「行くか」
「うん」
 二人は集まってくれた人たちの許へと向かった。